お久しぶりです。
昨年度女子部主将の江口です。
実は現在女子部監督を務めている岡さんのインタビュー企画を半年前に実施しました。
岡さん自身について、現役時代の話、コーチとしての思いなどをたっぷりと語っていただきました。
ぜひお楽しみください。
~2022年9月22日 Zoomにて~
江口:それではまず、お名前と入学年度を教えてください
岡 :岡奈々子です。入学年度は平成23年度です。
江口:8年違いですね。思ったより近く感じます。
江口:好きな食べ物と嫌いな食べ物を教えてください。
岡 :こんにゃくが好きです。煮物に入ってるのもいいし、田楽や刺身こんにゃく、こんにゃくゼリー、何でも素晴らしいです。きゅうりも好きですね。生でも漬物でも。栄養にならなそうなものが好きなんだと思います。
江口:味がどうこうというより、食感が特徴的ですね。逆に嫌いな食べ物はありますか。
岡 :基本なんでも食べれるけど、牡蠣は苦手です。
江口:趣味はなんですか。
岡 :うーん……。
江口:休日に何をされていますか?
岡 :本を読むか、DVDを借りてきてアニメやドラマを見るか、文章を書くか、ですかね。文章を書くのは発表するためはなく、自己満足です。それが趣味なのかな。
江口:立派な趣味ですよ!趣味でたくさん文章書かれているからこそ、あのブログが書けるのですね。老若男女問わず人間一般について心に刺さる文章だなと毎回感動しております。
岡 :そうかな。ありがとう。基本的には、好きなことを好きなように書いてます。ただ、小説を書く時とブログを書く時は心持がぜんぜん違いますね。ブログは東大ボート部を応援してくれている人向けなので、読み手を意識するかな。
江口:現役への応援も感じます。節々から読み手への思い遣りを感じるし、キラリと光る表現があって素敵です。
岡:そう言ってもらえて嬉しいです。
江口:小さい頃はどんな子供でしたか?
岡 :これはねえ……今思うと、相当やばいやつだったと思います。根暗でコンプレックスの塊でした。しゃべるのが苦手で。今もなんですけど、吃音症なので、人の名前を呼べなかったり自分の名前も言えなかったり、とにかく話すのが不自由でした。他の人が当たり前にできることが、自分にはどう頑張ってもできないという感覚ですね。国語の音読なんかもうトラウマです。今も、伴チャリ中に選手の名前を呼べなかったり、伝えたいフィードバックが言いたいとおりに言えないことがあって、そういうのはやっぱり悔しいです。
江口:確かに型にはまったものだと、間違えられないところがありますよね。私は真逆で、暗記とか音読とか好きなんですけど、自由な作文が苦手です。私は何話せばいいか決まってるのが楽に感じるので、逆で面白いです。
江口:どうして東大に入ろうと思ったのですか。
岡 :そもそも京大に行きたかったんですよ。校風的に、京大はちょっと変わり種で、東大は正統派と言うイメージがあったので。でも、京大となると一人暮らしになるので、そのお金は出せないと言われてしまいました。じゃあなんで東大にしたかというと、やっぱり人に認められたい欲があったのと、友達も東大目指していて負けたくなかったのと、家が近いのもありましたね(笑)。要は他人軸で生きてました。女子部のみんなは、進振りがあるからとか、これを勉強したいだとか、しっかり考えた上で東大目指した人が多くて、すごいなって思いました。ちゃんと自分軸で生きてるんだなって。
江口:私も負けたくないとかで決めました。それもいいんじゃないかなと思いますけどね。
岡 :そう思いたいです。
江口:後期課程で文化人類学を選んだ理由を教えてください。
岡 :入学時点では理Ⅰだったんですけど、それは「理系の方がかっこいいから」という、それだけでした。物理とかロマンあるじゃないですか。
江口:わかります。かっこいいです。
岡 :でも、行った瞬間向いてないのがわかって。アバウト人間なので、薬品を正確に測ったりするのが無理でした。数学もよく理解できなくなって。もともと文系が好きだったので、後期課程は文系がいいなとは思ってたんですけど、後期教養の文化人類学に行ったのは、やりたいことが決まってなかったからです。研究対象はなんでもありだし、一番潰しが利くかなと思って選んだんだけど、結局何も学ばずに終わっちゃいました。
江口:それが後期教養のいいところですよね。分野横断で幅広く学べる。私もそこに飛びつきました。
岡 :そうね。今思うと、表象文化論(メディア・漫画を学べる)とかの方がよかったかも。文化人類学はミスチョイスだったような気がします。
江口:卒論のテーマは?
岡 :アフリカのエチオピアのあたりにダサネッチ族という人々がいるのですが、ダサネッチ族の戦争の変遷、というテーマでした。昔はこん棒とか槍で戦っていたんですけど、先進国から武器が入ってくることによって、戦争のやり方が変わった。「顔の見える戦争から顔の見えない戦争へ」という、そんな研究でした。
江口:先行研究を見つけるの難しそう。でも分野は面白そうですね。
岡 :そう、ちゃんとやったら面白かったと思う。文化人類学って社会学と対比されることが多いんです。社会学はアンケート調査や、数値を出して分析するけど、文化人類学は数値には表れないところに目を向ける。文化人類学者は現地に行って、その民族と共に過ごして、民族誌という文章を書きます。それこそ、こんなふうにインタビューしたりして。
江口:アマゾンの人と暮らしてみるドキュメンタリーを見たことあるのですが、それが一つの研究手法だったんですね。ある言語学者がその民族の言語を学ぶのに一緒に暮らしていて、原始的だけど、一番本質的な手法だよなと思いました。
岡 :そもそもは、植民地支配のための学問だったみたいです。支配するためには、相手の民族の特性とか考え方を理解する必要があったから。
江口:面白いですね。大航海時代が浮かびました。
岡 :青木もインタビューで言ってたけど、コロンブスさえ来なければね……。文化人類学はフィールドワークが基本なので、ちゃんと学んだら本当に面白いと思う。
江口:どんな人が好きですか。
岡 :一筋縄ではいかない人が好きですね。なんだろう、挫折もちゃんとしてきて、どうにもならないことを抱えているけど、それを乗り越えてきたり、乗り越えようとしている人。人に理解されない苦しさも知っていて、それでも頑張って生きている人。自分自身がひねくれている分、簡単には触れられない部分があるということに魅力を感じます。そういう人には、もしかしたら自分の中にあるなにかしらが届くんじゃないかと、そんな気がするからかな。
江口:人間らしい部分をさらけ出してもらえると嬉しいもんだなとボート部で思いました。
岡 :それはどういう瞬間ですか。
江口:女子部のメンバーの悩みをたくさん聞いている時とかに思いました。普段人間は他人にそんな姿を出していないから、こんな面もあったんだという驚きがあったけど、自分もそういう面があるから、自分も受け入れられた気がして。理解されない感情を持つこともおかしいわけではないんだって、自分も安心したというか。
岡 :今年はなんだかんだ、それぞれさらけ出してくれてたよね。あそこまでさらけ出すのは、私にはできなかった。女子部のみんなに、人を信じる力があるからできたことだと思う。
江口:時間をかけて育まれてきたんだろうなあ。1・2年生の頃ではできなかっただろうな。それぞれの発言も、裏に考えがあってのことだと知れました。
岡 :女子部04の3人は、以前とぱっと見は変わってないように見えるかもしれないけど、中身は変わったよね。なんというか、すごく嬉しい変化。
江口:「その人らしさ」は変わってないんですけどね。よりコミュニケーションが双方向になったのもあるかも。
岡 :でも、江口も平松も森田も、基本的にすごくいい子だよね。素直に人の言葉を聴けるところがあるし、それって、それぞれのお家で大事に育てられてきたからなんだろうなって思う。これはみんなにはじめて会った時から感じてました。
江口:何がそうさせているのか自分でも考えてるんですが……でも私たちも、特に最初の方は、人にあんまり興味を持たず、自己完結しがちだったかもしれません。「勉強」という自分一人で乗り越えるものに打ち込んできた人が多いからなのかな。
岡 :勉強ができれば、人と関わらなくても生きていけるところがあるのかな。周りからも認めてもらって。
江口:でも、「認めてもらう」って、対等な関わりじゃないですよね。
岡 :成績という、表面的な評価だしね。人間性ではない。そこを支えに育ってしまうと、人に興味のない人間になりがちなのかな。
江口:そう考えると、私は勉強だけじゃなくて、スポーツもやって人と関わってきてよかったなって。そこにスポーツの価値があるというか。
岡 :江口のインタビューをしてみて、江口の陸上の経験は本当に大きいんだろうなって思いました。人と関わる経験値をしっかり積んできたんだろうなって。
江口:自覚してなかったけど、そうかもです。陸上に多くの時間を費やしてよかったです。どうして自分がさらけ出そうとできるか?という理由は深く考えてこなかったけど、今までの出会いに支えられているんだなって。そういう意味であのインタビュー企画面白かったです。
岡 :わかってるふりしたり、わかってないふりしたり、評価や一般化をしたり、そういうんじゃなく、目の前の人とちゃんと向き合っていきたいよね。というのは、私なりの親心ですが。
江口:私たちも、お互い嚙み合わない部分も理解できないところもあって、でも、曲がりなりにも伝えようとしてきたというか。
岡 :よく頑張ったと思います。本当に。
江口:「どんな人が好きですか」という質問で、でここまで話が膨らむとは。
江口:タイムマシンを使えるとしたらいつどこに行きたいですか。
岡 :いつでもいいけど、侍の時代に行きたいです。義理人情が好きなので。自分のことをいうなら、中高で運動部に入ってたらよかったなと思います。運動苦手なので、当時は選択肢に入れてなかったんだけど、意外と向いてたのかもしれない。運動部、特にチームスポーツとなると人とのつながりが強くなるし、そこでもうちょっと、対人関係の経験値が溜められたらよかったなと。
江口:スポーツって面白いですよね。やってることは身体動かすことなのに、自然と人との会話が生まれる。
岡 :文化部って、自己完結でもできてしまう面があるんですよね。私がやってたのは、吹奏楽とバンドと演劇と文芸なんですが。
江口:吹奏楽とか、人との関係ありそうですけど。
岡 :いや、意外と人と会話しなくてもできるんですよ。パーカッションやってたんですけど、音楽室の奥の部屋で、メトロノームに合わせてひたすら一人で練習してました。それこそトレーニングみたいに。
江口:でも私は、中高文化部なのにボート部入る人を本当に尊敬していて。私はポジティブに言えば自信となるものを積み上げていたいのですが、逆に積み上げないと不安なのかな。文化部出身の方が思い切りがあると言うか、何かやってきたからこそというより、今やろうと思うことに向かえる。私は運動やってないと落ち着かない、孤独に耐えられないところがあるかも。何かに属さなくてもしっかり生きている人見ているとすごいなと。
岡 :孤独にもいろいろあって。本当は人と関わりたいけど関われない、自分
の建てた城の中に籠ってるような孤独は、なんか悲しいなって思います。自分では気づいてなかったけど、今振り返ると、当時はそうだった気がする。
江口:人と関わりたいという気持ちに、中高時代は気づけなかったかもしれないけど、それでも岡さんが毎日頑張っているのはすごいというか、先ほども言ってましたが、自分の闇と闘っているというか、それも大事な時間というか、否定しないで欲しいなって思います。
岡 :そう言われると、救われた気持ちになります。自分を否定するのは簡単なんだけど、今の江口みたいに、こうして肯定してくれる人がいるなら、否定することに逃げちゃいけないよなって思う。
江口:自分を否定することに逃げないこと。それに気づけたのが、ボート部最大の収穫かも。東大生たるもの「批判の目を鍛えなきゃ」とも思うんですが。研究はそれでもいいけど、人とか自分の感情まで当てはめては駄目だよなと。自分の中のパラダイムシフトです。
岡 :自分を否定するって、これまで育ててくれた人に失礼だよね。親という意味ではなく、どんな関係性であっても、ちゃんと見てくれた人がいる中で、「自分なんて」と言うのは普通に失礼だと思う。私のことは反面教師にしていただければ。
江口:岡さんは辛い時があったらどうするんですか。私たちは、たとえば岡さんが見てくれる、何かあったら聞いてくれる環境だったけど、社会人になった時に、どう自分の機嫌取ってやってくんだろうと。
岡 :それ、インカレのとき聞いてくれたよね。あの後考えたんだけど、私自身は、自分の機嫌をあまり取れてないかも。そこに自分の限界を感じてます。でも、今の職場は学びが多くて、自分の成長につながる仕事だと思う。なにより一緒に働いてる人がすごい人ばかりで。本当の意味で人を想える人が多くて、とても恵まれているなと。それと、ボート部という、職場外にもう一つ別の世界があることには、本当に感謝しています。そこで救われている部分がかなりあるので。そこでバランスを取りつつ生きてます。
江口:ボート部については、魅力は感じているけど、終われてほっとしている自分もいる。自分でやりたいと思っていても、辛いことはあるし、我慢するのもよくないので、まずは無理しないでください。でも、岡さんにとってもボート部が居心地のいい居場所なのはしあわせと言うか。こっちとしたらありがたいのに、コーチの側からも求められてるのは嬉しいです。そう考えると、ボート部は存在していて欲しいですね。
岡 :そういえば最近前川さんと話していたとき、我々はお金を貰ってないけど、それ以上に大きい報酬を貰っているよね、という話になりました。
江口:部活入らず、就活して、とかの大学生活だったら私やばかったかもしれない。素晴らしいと思います、東大ボート部。
江口:近況を教えてください。より最近のことで何かあれば。
岡 :児童養護施設に勤めて6年目になりました。なんらかの事情があり、家庭で生活できない子どもたちを見る仕事なんですが、すごく理想の高い仕事だなって思います。人手不足、厳しい勤務体系、職員自身の課題など、そういう現実との折り合いをどうつけていくか、それが難しい。結局は自分にできることを地道にやるしかないんですけどね。インカレの前に女子部コーチ陣(いつほさん、前川さん、江澤さん)で話した時、理想と現実のギャップの話になったんですが、それとも通じるよね。「日本一」という理想をかかげて、猛烈なトレーニングにがむしゃらに励む、かつての東大ボート部のやり方はやっぱり遠回りだったと思う。それではオーバートレーニングや怪我に繋がるし、うまくいかない人も増えるよね。いかに現実を見て下から積み上げていくか、というのは今の女子部の基本方針だと思うけど、それってすべてのことに通じるなと。
江口:ボートという題材を抜きにしても、人生全般に応用できる学びが多いですね。高い目標に向けて頑張っているというところに惹かれて入部する人もいるとは思うんですけど、中身は着実に進む、という両輪を実現出来たらいいですよね。女子部のコーチ陣はボート部の存在意義を根本から考えていますよね。女子選手にも伝わっています。トレーニング方法とかも女子部が色々試して、男子部に波及することもあったりして、今振り返ってみるといい女子部だったなって思います(笑)
岡 :女子部の体制がここまでうまくハマったのは奇跡です。理想と現実、両輪でやっていきたいっていうのは本当にその通りだよね。現実だけを見ていればいいわけではなくて、無理することもときには必要なのかなって思うこともある。「現実的に無理だからできません」で終わらせてはいけない、そういう局面があるのもまた事実。「ここぞというとき」と言えばいいのか。
江口:全く無理しないで理想を叶えられるわけないので。成績が振るわなかったときも、自分が努力したからこそ、これまでの地位が築かれてきたのもまた事実で。「無理しなくていい」というのもまた理想から遠ざかりますよね。特に、他人の人生も関わる場合だったら、トレーニング理論という正解の方向だけではまかないきれないかもしれない……。
岡 :トレーニング理論にしても、根本は日本一を叶えるためのものだと思ってます。選手として最も成長するために、長期的な視野を持って、トレーニングのしすぎを防止したり、適切な量をやりましょう、という話であるはず。理想を低くするのではなく、目標まで最短距離にたどりつくために、無理のないトレーニングを積むということ。目標や理想を見失っていなければ、そして今できてないことに悲観しすぎなければ、それでいいのかなっていう気もする。
江口:「無理をしない」というのも努力と言うか。努力が好きな人にとっては、それも努力なんですよね。何をするにしても多少の無理や頑張りは必要なんだなと。前川コーチの話を聞いたときに、頑張らせない方向に行くのも、ある意味選手からするともどかしいじゃないですか。磯崎とかそんな風に見えたし、自分もすごくそうだし。
第2部 現役時代について
江口:現役時代はどんな選手でしたか。
岡 :これもまた、相当やばいやつでしたね。実力の話をすると、最初の方は一番弱い選手でした。同期の女子が8人入って……
江口:多いですね!!
岡 :新人期に2人辞めてしまったけどね。ボート部入った時からBR研究会と言うバンドサークルと兼部していて(笑)、BR研のために秋ヶ瀬遠漕も行かなかったし、ボート部もやるけど気持ちとしてはBR研の方が大事だと思ってました。2年生の半ばくらいまでは。
江口:すごすぎる!片手間でやれる部活じゃないですよ、ボート部は。
岡 :ボート部を辞めたいと思ったことはないけど、そこそこでいいやと思ってた。1年の冬にいつほさんとダブル組んで、なぜかめっちゃ速くて、その時が一番楽しかった時かもしれない。クルーボートの楽しさを一番味わわせてもらったと思います。2年生になって、同期の強い子が辞めちゃったり、休部する子もいたりする中で、自分が一番コンスタントに練習はしてたと思うんだけど、それもあってか、エルゴが少しずつ回り始めました。体重が軽いわりにはエルゴがまあまあ回るタイプの選手でした。
江口:なんでだろうと思ってました。
岡 :めっちゃオーバートレーニングだったと思うけど(笑)。当時は認識してなかったけど、3年生の時は本当にオーバートレーニングだった。身体が追いついてなくて、記録は下がってばかりでした。最高代になってようやく、スポーツする身体になってきて、回復力も上がったからなのか、また伸び始めました。あと、学校に行かなくなったというのも伸びた要因かも。
江口:(笑)。キャンパス行くと疲れますよね。
岡 :それでやっとエルゴも8分切れたりとか。冬場のスカルも速くなってきて、ちょっと頑張ると男子のスカルにも勝てたりして、それは楽しかったです。
江口:ちょっとずつ楽しくなってきたんですね。
岡 :スカルは楽しかったけど、クルーボートの方はどうかと言うと、全く合わせられない人でした。自分のこだわりが強すぎて、漕ぎも変えられなくて、
「だって自分が一番スカル速いし」みたいな傲慢さもあって。今考えたら自分が変えればよかったのにね。人のせいにしてばかりでした。今年の女子フォアの方が、私が乗ってた女子クオドより速かったんじゃないかな。エルゴスコアだって私の代の方がだいぶ速いはずなのにね……当時は、本当に私が足引っ張ってたんだろうなって。そして一旦4年生で引退したんだけど、5年目にもう一度、漕手に復帰しました。本当にやってよかったと思う。4年生までは本当に自分のことしか考えてなかったし、人に対しては「言わなくても気づいてくれ」って思ってた。すごく傲慢な姿勢と言うか、人に期待してなかったのかな。いや、変に期待してたからもしれない。自分が思ってることを何も表現しなかったし、主将としては最低だったと思う。その反省があっての5年目でした。
江口:5年目も漕ぐことにしたんですね。
岡 :でも、かなり迷いました。冬場までは女子部の学生コーチをやってたんですけど、当時は女子漕手が3人しかいなくて。東商戦の種目をどうするってなったとき、1Xと2Xでいく選択肢もあったんだけど、やっぱり自分が乗りたいと思って、4X +でいくことにしました。一番の理由は、もう一度自分が選手として、結果を出すチャンスが欲しいって思ったこと。あとは、女子部というチームに対して、自分は本当に現役時代何もしなかったので、今度こそチームを育てたいと思って。裏主将みたいなイメージでやることにしました。
江口:そうだったんですね。
岡 :それで組んだクオドでお花見レガッタに出て、立教に勝ったんだよね。格上だと思ってた相手だったので嬉しかったです。たぶんこのクオドが、私の乗った中で一番速いクルーでした。
江口:凄いですね。下級生と乗ったのに速かった。
岡 :漕ぎが比較的合ってたかな。当時ジュニアだった神林と江澤が相当頑張ってくれたのもあります。いいクルーだったと思います。
江口:見てみたい!
岡 :動画たぶん残ってるんじゃない?(笑)それで手ごたえもあったから、東商戦は勝てるかと思いきや、勝てなかったんだよね。普段の練習と比べても、圧倒的に艇速が出なかった。ピーキングが失敗したのかもしれないし、私も力が入りすぎたのかもしれません。京大戦もクオドだったけど、京大が強くて勝てず。インカレはダブルで江澤と出たんですが敗復落ちで、そのまま引退しました。
江口:そうなんですか!岡さんと江澤さん、結構密に関わっている。
岡 :実はそういう関係なんですよ。5年目でやったことが、ちょっとは後輩に残ってたらいいなと思ってます。
江口 :自分の漕ぎが正しいというわけではないけど、今年のインカレのフォアは、クルーとして漕ぎをどう持っていけばいいかわからなくなってたなって、ちょっと思います。自分に集中したいけど全体も見なきゃ、みたいな。でも完璧は無理だし、周りもいいレースをしてくれたと言ってくれたし、でも自分の中でこれ以上できなかったし、自分のスキルやリソースを総動員した中でできなかったなら仕方ないかなとか。できる働きかけはしたし、自分の変えられることはやったけど、でも変えられないとこもあって、難しいスポーツだなという印象が最後に残ってしまったかも……。
岡 :難しいけど、「できる働きかけはした」と言えるのが凄いなと思う。特に最後の方は全員がそれを出来ていた。漕ぎが合わないことはある意味当たり前でもあるんだけど、そこをどうにかしようって、全員で考えられていたと思う。そして、それさえできていれば、そこまで大きくずれることはない。私みたいに、合わせる気がない漕手が一人でもいたらクルーとして終わるけど、今年はそういう人はいなかった。
江口:最後は、自分の悩みや不安はどうとかいうより、みんながこれだけやってくれてるということで、満たされているというか、安心して向かうことができた気がします。色々あったけどこれでよかったなって思えたんですよね。とらわれている時は、みんなそれぞれ考えてやってるのに艇速の雲行きが怪しくて、どうにかしなきゃって思って。寝る前とかモーション前とか悩むんですけど、モーションが始まれば集中しようってやってました。水上は不安を持ち込む場じゃなくて、自分の感情は置いといて、出来ることはやる、と。そうやって、気持ちを切り替えられるようになったのが最後のインカレだったなと。それまでは、理想があるのに「実際そうなってない」というところに目を向けてばかりでしんどかったんですけど。新人、浅野杯も悔しいことが多かったし、最後のインカレにしても、負けや順位だけに目を向けると同じ結論になってしまう。でも、そうじゃない満たされ方が出来た。周りに何と言われようが、満足した気持ちがありました。結果だけじゃない、というところに関しては、コーチの方がずっと働きかけてくれた考え方でした。
岡 :そうね、結果だけじゃないよね。私も04のインカレの最後のレース見て、頭じゃなくて、感覚として「結果だけじゃないよな」とようやく思えました。それまでも、口では「結果だけじゃないよ」とは言ってたんだけどね。東商戦のペアも、京大戦のフォアも、見ててすごく嬉しかったんだけど、それってやっぱり、「勝ってくれたから」だったと思う。でも、インカレはそうじゃなかった。レースを伴チャリしながら、1Qの時点で「あぁ、なんかよかったな」って思ったんだよね。その瞬間に、「結果だけじゃない」ということが、私もやっと腑に落ちました。なので、みんなには感謝しかないです。
江口:そんな風に言ってくれて嬉しかったです。インカレの後も言ったんですけど、勝つ喜びは東商戦や京大戦で分かって、それは自信にはなったんですけど。それまで私は浅野杯もびりだったし、勝ってこなかったので。ずっと勝てないことを知ってるし、そこから抜け出せないことも知ってた。頑張ったのに頑張ってないと思えることばかりだった。でも3年生からちょっとずつ考えを改めて、それを少しずつレースに応用するようになったのが大きかった。東商戦に勝つことで得られた自信よりも、抜け出そうとした3年生の取り組みの方が印象的で、それ以来ぶれなくなった。そして東商戦、京大戦と勝って、そのままインカレでもいい結果、というのが理想だったと思うけど、結果だけ見るとそうではなかった。見方によっては急降下。でも誰に何と言われようと、自分は満たされているという考えがぶれなくなったところに、以前との違いを感じます。
岡 :ほんとによかったなと思います。
江口:現役時代で嬉しかった思い出を教えてください。
岡 :入部から遡っていくと、新人の時、新人女子担当トレーナーの小田さん(04年度女子部へのスイープオール寄贈の中心となってくれた方)がすごく親身になって見てくれました。私の代は女子多かったし、大変だったとは思うんですけど。私は4月の段階ではまだ、ボート・合気道・躰道で迷ってて。それで、なんとなくボート部は違うなって思って、一旦辞めようとしたんだけど、そのときに小田さんが引き止めてくれて。何を言われたとかは覚えてないけど、こんな自分でも引き止めてくれるんだ、というところがすごく印象に残ってます。小田さんがいなかったら、私は今ここにいないんだなって思うと不思議ですね。
江口:ボート部のほかの団体にない強さは、その粘り強さですよね。私もそこが印象的でした。
岡 :まあ必死だよね。
江口、岡:(笑)
岡 :2年生の新人戦が終わってから対校に上がったんですが、そのときの女子部コーチ陣がかなり手厚くて。齋藤さん、石橋さん、尾立さんの3人で見てくれて。いつほさんが集めてくれたんだと思います。特に尾立さんは2つ上の男子漕手だったんだけど、「女子部を見たい」っていうのを最初から言ってくれていて。
江口:えー!
岡 :その時点でもう嬉しいよね。尾立さんが言ってたのは、女子が弱いチームっていうのは全体も弱くて、集団の中に本気になれない人がいるとチーム全体の質も落ちる。女子部を、勝ったり負けたりはあるけど、本気で嬉しがったり、悔しがったり出来るチームにしたい、って言ってくれてました。
江口 :胸がいっぱいです。
岡 :一緒にダブル乗ってくださいって頼んで、今でも鮮明に覚えてます。「キャッチでいかに水をつかむか?」というのを、一本一本、本当にワンストローク単位で見てくれました。私の漕ぎのこだわりは「キャッチでいかに水を逃さないか」なんですが、それは尾立さんとのダブルあってのものです。あとは、伝えるべきことを本気で伝えてくれたなって思うし、女子部主将も、尾立さんがいなかったらたぶんやってないと思う。そこまでやってくれたことに応えたいなって思って、4年目で主将をやりました。この表現が適切かはわからないけど、他人に愛情を懸けてもらえることで頑張れるんだなって、そう思えたのは人生で初めてでした。
江口:私まで頑張れそうなエピソード。
岡 :本当に嬉しかったです。そして最高代になって、そのときは男子部女子部というくくりはなかったんだけど、女子をメインに見てもらうコーチということで、1つ上の栗原さんと前川さんにお世話になりました。
江口:え!今の私からすると(前川さんも岡さんも)コーチって感じなんですけど、そこ師弟関係あったんですね。
岡 :実はそうなんです。
江口 :そこの絡み気になります。
岡 :(笑)。前川さんにはたまにクオド乗ってもらったりとか、忠告もろくに聞かず好き勝手やったりとか、大分わがままを聞いてもらった気がします。困らせてしまうことも多かったと思うけど、人として、何事にも一緒に向き合ってくれたような感覚があって。私は4年目なんか特にふがいない選手だったけど、やっぱりそうやって思いをかけてくれる、いつも見ていてくれる人がいるからこそ頑張れたし、嬉しいこともいっぱいありました。だから今こうして、前川さんと足りないところを補い合いつつ、一緒に女子部のコーチをさせてもらっているのがとても光栄ですね。
江口:素敵です。私の言う好きな人というか、(以前インタビューで話した)フラットに物事を考えられる人、というのはそういう人たちかも。自分が男子だから女子だから、というのではなく、もっとボート部全体という大きい視点で見るっていう考えって素敵ですよね。そういう視点で行動してくれた方々のおかげで今の女子部にも繋がっているんだなと思います。私も部全体のために女子部を強くしたいと思って取り組んでいましたが、今後も部全体、の視点は忘れずにいたいです。
岡 :たまたまそういった方々にめぐりあえて、トレーナーやコーチとして向き合ってもらえて、本当にラッキーだったと思います。
江口:他に嬉しかったことはありますか。
岡 :5年目の東商戦の女子クオドはすごくいいクルーでした。2つ下の男子コックスの田畑が乗ってくれて、自分のプライドをかけて乗ってくれているのを感じて、そこも含めて信頼できるメンバーだった。京大戦は3つ下の、これも男子コックスの小風が乗ってくれて、本当に一生懸命やってくれて、それも嬉しかったですね。
江口:結構男子コックスに乗ってもらってますね。
岡 :そうですね(笑)
江口:田畑さんは私たちの代のジュニアコーチをしてくれていたんですけど、まさか岡さんたちと繋がっているとは。
岡 :嬉しかったことは、思い出すと本当にたくさんあるね。引退のとき色紙に書いてもらったメッセージがすごく嬉しかったりとか。フライに艇庫に残っていたメンツでお昼食べに行ったり、しょうもない話したりとか。女子部に関しては悔やまれることの方が多いのでそう簡単には言えないことの方が多いけど、今も、何かあったら報告し合えるような相手がいるのは本当に嬉しいことです。5年目で江澤と神林が一緒に戦ってくれたのもすごく嬉しかったし、今でもつながりを持てていることも嬉しい。
江口:いろんな人との繋がりが見えます。コーチ含めすごい仲間に恵まれてたんだというのを感じます。
岡 :当時は男子部女子部というくくりはなくて、すべて一緒に練習していたので、チームの中で色んな人と繋がれた実感があります。今は男女で練習形態が違うから、どうしても踏み込んだ関係になりにくいなっていうのは思います。でもそのぶん逃げ場がないから、女子選手は女子部に集中できる、そういう良さもあるのかな。私は女子部からは逃げがちというか、本当に気を配るべきところがおろそかになっていたと思います。
江口:こうして今女子部のコーチしてくれて、女子部に対してたくさんのことしてくれていると思います。
岡 :だといいなと思います。私はどうしても自分の現役時代を否定してしまいがちなんだけど、やっぱり、当時の失敗を抜きに私のコーチ活動は語れませんね。
第3部 コーチの話
江口:女子部コーチを引き受けようと思った理由を教えてください。
岡 :一番は、いつほさんに頼まれたからです。他でもないいつほさんにお願いしてもらったことが嬉しかったし、もし自分にできることがあるなら、全力で応えたいと思いました。あとは、社会人になって3年目だったので、タイミングもよかったというか、仕事以外に+αでできるゆとりがあったのも大きかったです。コーチの話をもらったときには、大きく2つのことを思いました。1つ目は、引退してからもちゃんと会えるような、本当の意味で仲のいい女子部になってほしいなって思いました。仲がいいというのは、和気あいあいという意味じゃなくて、お互い認め合えているということです。これは自分が女子部でできなかったことの心残りからきていますね。2つ目は、やっぱり児童養護の仕事をしているので、東大ボート部がいかに恵まれているのか、現役のみんなには本当の意味で理解してほしいなって思いました。「恵まれている」と言うのは簡単なんだけど、言葉だけではなく、実感をもって理解してほしいなと。そもそも大学に行く意味からして謎だし、その上で、わざわざお金を出して部活をやる意味とは何なのか。東大ボート部なんて贅沢の極みですよ。だってみんな、普通に働ける年齢じゃないですか。ボート部員は何も生産してないし、社会にとって益となることは何もしていない。ただ自分たちの成長のためだけに時間を使えているわけだけど、なぜそんなことを認めてもらえているのか。児童養護の世界だと、18歳で施設を出た後、親の後ろ盾がない中で独り立ちして、やっぱりうまくいかない子も多い。そもそも、ボート部で「頑張ろう」と思えることそのものが、当たり前ではないんですよ。頑張りたいという気持ち、自己実現の意志は、安定した生活・安定した大人との関係があった上で培われるもの。みんなそれを当たり前と思ってるから気づかないと思うけど、本当にそうなんです。いつ次のごはんが出てくるかわからない、いつ物が飛んでくるかわからない、そういう環境では生き延びるだけでせいいっぱいだし、何かに頑張りたいなんて、とてもじゃないけど思えない。自分がよく職場の話を出すのはそういう意図があります。コーチをやる上での問題意識はやっぱりこの2点ですね。いい女子部になってほしいという気持ちと、東大ボート部がいかに贅沢で、誤解を恐れずに言えば、いかに無意味なことをやっているか、それをわかった上でボートを漕いでほしいという気持ち、です。
江口:そういう視点を持ち込んでくれたことに感謝しています。贅沢な世界ですよね、OBとかがこんな支えてくれるの。お金払っているわけでもないのに、それを支えてくれる人がいる。お金の流れが贅沢すぎますね。OBもなぜあんなに支援してくれるのだろう、と入部前は思ってましたが、いざ恩恵受けると、忘れてしまいがちでした。あって当たり前、ないと成り立たない、みたいに考えちゃう。でも贅沢だと言う視点を、岡さんが現役に絶えず言ってくれたのがよかったです。
岡 :それはよかったです。でも、中にいるとどうしてもわからないことってあるよね。自分も、こういう仕事してなかったら、気づかないままだったと思う。どうしても、OBもいいとこ就職する人が多いじゃないですか。でも、そういうのが当たり前と思わせたくなかった。
江口:私も東大来る前、リッチな人の集まりだと思ってたので、岡さんみたいな大人が身近にいてくれてよかった。
岡 :意味分からんレベルでの恵まれ度だよね。普通の感覚というのをたまには思い出してほしい。
江口:森田も、ボート部の魅力は財力って言ってました。
岡 :そこに気づけているのは素晴らしい。
江口:恩恵は受けているけど、そこに安住しちゃだめだよね、と思います。
岡 :ただ、そこに引け目を感じる必要はないとは思ってます。贅沢な場所にいるなら思う存分贅沢すればいいし、思い切り楽しんだらいいと思う。でもそうじゃない世界もあるっていうことも、ちゃんと知っておいてほしいです。
江口:女子部コーチとしての自身の役割を教えてください。
岡 :最初は片山さんの後任という形で入ったので、片山さんからメニューの作り方を教わりつつ現地のコーチングもしつつ、という感じだったのですが、前川さんが入ってくださってから、だんだん今の形に変わってきました。いつほさんは監督として長期的な視点を持って全体の流れを見る役割、前川さんはトレーニングの計画や週ごとのフィードバックを担う役割、そして現地での技術的な指導は向井さんや聖美さんが担う、となったときに、私はやっぱりもともとの問題意識に立ち返って、「チームとしての女子部をどう作るか?」というところをメインで見ることにしました。仕事の都合もあって月2回しか艇庫に行けないけど、そのぶん、とにかくみんなと話すことを大事にしました。チーム作りは他人と向き合うことだと思うんですが、それって結局自分の内面と向き合うことだと思っているので。しょうもない話もしながら、何か私からアドバイスをするというよりは、今みんなが悩んでることを一緒に考えたい、というつもりでした。
江口:改めて女子部のコーチ陣手厚いですよね。体力技術面もカバーした上でチーム作りを支えてくれる岡さんがいるのは本当に心強いです。
江口:コーチをしている中で嬉しかったことは。
岡 :単純に、みんなと話している時間が楽しかったです。江口なんか特に、艇庫に行くたびに喋るネタを準備してくれていて(笑)、「おしゃべりしませんか」って言ってくれること自体嬉しかったです。
江口:よかったです。毎回長々喋るつもりでいたんで、いいのかなって思って。
岡 :長いおしゃべりは大歓迎です。江口だけじゃなく、平松や森田ともいろいろ話したな。あと、江口と平松と私で全日本の中継見た日があると思うんだけど、昔のボートの映像が流れたシーンで2人が爆笑していて、そんな2人の姿が見れて嬉しかったですね。何でもないことだけど、こういう時間が心に残ったらいいなって思った。しょうもないことで笑えるって、すごく大事だし、幸せなことだと思う。
江口:あれは嬉しかったですね。
岡 : 江口、平松、森田は本当に成長してくれたというか、乗り越えるべきところを乗り越えてきたなって思う。しかも、それを1人じゃなくて3人で支え合って乗り越えてきてくれたなって感じる。だから、私が現役で叶えられなかったことを3人が叶えてくれた気がして。私の手前勝手な気持ちだけど、本当に感謝しています。
江口:ボート競技の魅力を教えてください。
岡 :漕いでいて、オールのシャフトがしなる瞬間が好きです。私のこだわりですね。そのためには、水中で支点ができてないといけないんだけど。水がしっかりかかったときの「ギュ」がフィニッシュまで強くなっていく感じが好きだったな。あと、ダブルで1回でも一緒に漕いだ人のことは絶対忘れない、っていうところです。クオドは忘れちゃうこともあるけど、ダブルは忘れない。
江口:いろいろな艇種乗った自分でもそれ思います。
岡 :一つ一つ鮮明に覚えているんだよね。女子選手と組んだクルーはもちろんだけど、尾立さんや齋藤さんや栗原さんとも乗ったし、同期の男子と乗ったことも、なんかわりとはっきり覚えてる。ダブルは本当に2人だけの世界なのが魅力。いいことばかりじゃないけど、2人だけの空間を密に共有するから絶対忘れない。そこがボートの魅力かなと思います。
江口:私はつい自分が練習回さなきゃ、雰囲気作らなきゃと、誰と乗っても思うところはあるんだけど、それぞれの人の癖とかまで鮮明に覚えています。自分が言った時の反応とかも人それぞれで。荻原とか上條のこともいまだに思い出します(笑)
江口:東大ボート部の魅力を教えてください。
岡 :いや……難しいなあ。
江口:(笑)
岡 :だって、戸田ボートコースの中でも、あんなにいい場所にあんな大きい艇庫かまえて、なんとも言えない気持ちになることはあるね。現役時代の自分には、ふざけんなって言ってやりたい。たくさん支援してもらって、支えてくれる人もあれだけいたのに、「結果残せなくてごめんなさい」で終わりにするなんて、無礼にもほどがあるなって。そんな選手ばっかりだったら、東大ボート部なんてない方がいいと思う。死にそうな思いをしている人が現実にいる中で、これだけ恵まれていることに気づかず、仲間を思いやることもできない、それなら、部活も大学もやめて働けば?って思う。でも東大ボート部の魅力ってところで言うと、やっぱり、受け継がれてきたものがある、というところかな。それは人それぞれ違うだろうだけど、私だったら、「ちゃんと向き合ってもらった」という感覚かな。損得とか関係なく、本当に見てきてもらったし、支えてきてもらった。その感覚が自分に刻まれた感じがする。それが今後も受け継がれていくのかはわからないけど、やっぱりコーチとして戻ってきた以上は、自分がやってきてもらったことを、次の世代に受け継ぎたいなって自然に思う。それぞれがもらってきたものが次の世代に受け継がれていくこと、それはボート部の魅力と言えるのかもしれないね。
江口:代が違えば価値観やチームの構成は違うから、その時々に合った関係性で維持していくもの。でも、その感覚自体は遠く離れたOBOGも持っている、だからこそ支えてくれる。他にはないことですよね。
岡 :組織としての繋がりを感じるよね。ボートという競技の特性かもしれないし、そういう人が集まっているのかもしれない。
江口:遠く離れて住んでいて、戸田に来て応援できなかったとしても、お金で応援の気持ちを示せるならいいのかも。感謝とか繋がりの大切さがわかっているからこそなせる業なのかも。
江口:女子部の選手へのメッセージをお願いします。
岡 :難題ですね……うーん、04代最後のコーチブログでわりと言いたいことは言ったけど、あらためて、みんな本当よく頑張ったなって思います。よくここまでチームを持ってこれたなって。東商戦や京大戦の勝利は、傍から見たらたしかに大きいことなのかもしれない。でも、そういうことじゃなくて、選手が一人ひとり、人として変わったなって思う。人が成長するときって、周りがどうこうではなく、自分が「変わりたい」って思ったときなんだよね。それぞれが「変わりたい」って思ったからこそのインカレクルーだったなって思う。それはコーチの力じゃなくて、それぞれの気持ちあってのもの。だから、それをそばで見させてもらえたことに感謝しています。コーチやっててよかったなと思える瞬間もたくさんもらって、本当にありがとうございました。みんなと数年後にまた会うのが楽しみです。
江口:それまでお互いがんばりましょう。
江口:最後にこれを読んでくださっている方々へメッセージをお願いします。
岡 :いつもこちらのコーチブログを読んでくださって、本当にありがとうございます。やっぱり、読んでくれている方がいてはじめて成立するブログだから。私の文章で完結するんじゃなくて、読んでいる人の思い出とか、考えていることとか、そういうのと重なった時に文章として完成するんだなって本当に思っていて。読んでくれている人には感謝しかないです。私はひねくれた人間ですけど、ここまでコーチ業をさせてくれてありがとうございます。そして、江口はインタビューしてくれてありがとう。こんな企画を思いついてくれたことがすごく嬉しかったです。江口はまず何より自分を大切に、これからもずっと幸せになってください。もう十分幸せなのかもしれないけど。
江口:本当にコーチをしてくれて感謝しています。
いかがだったでしょうか。
岡さんが現役時代に感じたこと、社会に出て感じたこと
自分の気持ちを一つ一つ大事にして現在も女子部に関わってくれている
ことが伝わってきました。
筆者(江口)が語りすぎたせいでインタビューというよりも対談のようになってしまいましたが、今までよりももっと岡さんのことが知れたような気がします。
今年の女子部は東商戦、京大戦の勝利と目覚ましい活躍を見せてくれております。
今後も対話を重ねていってさらにいい形でインカレを迎えて欲しいな思います。
江口











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