こんばんは。
女子部コーチの岡です。
いよいよ明日(日付的には今日ですね)からインカレのタイムトライアルが始まります。
本当に「いよいよ」という感じで、女子部はもちろんですが、どのクルーのレースも楽しみです。
さて、解体新書・選手編のラストを飾るのは、今年度女子部主将の江口幸花選手です。
今回の「こゝろ」クルーでは整調をつとめます。
芯がありつつも耳に優しい声がチャームポイントです。
是非お楽しみください。
~8月23日・東大艇庫J1部屋にて~
岡 :よろしくお願いします。
江口:よろしくお願いします。
岡 :それではまず、お名前と生年月日を教えて下さい。
江口:江口幸花です。1999年5月13日生まれです。
岡 :森田と2日違いですね。
江口:時期的に忘れられがちなんですよね……クラス替えしてまだ序盤の時期なので、仲良くなってから「あっ、もう過ぎてたんだね」ってなることが多くて。だからこそ、ちゃんと祝ってもらえたときはすごく嬉しいですね。
岡 :お名前の由来を教えてください。
江口:三姉妹の末っ子なんですけど、姉妹の名前が花シリーズなんですよ。長女・実花(みか)、次女・明花(はるか)ときて……画数的に縁起もよく、意味も良いということで「幸」がやってきました。
岡 :絶対さっちゃんって呼ばれる名前だよね。
江口:小学生のときとか、ちょっと古風というのと、「幸子」とよく間違えられるのがあんまり好きじゃなくて。あと、「えぐちさちか」なので、ちょっとかちかちしてるというか、強いというか、鋭いというか……それこそ「森田葵」とかやわらかくていいですよね。でも、中学生くらいから全然気にならなくなりました。今まで幸花っていう名前の子に会ったことないですね。オリジナリティのある名前でいいなって思います。
岡 :好きな食べ物と嫌いな食べ物を教えてください。
江口:好きな食べ物は、みずみずしい果物全般です。第1位が5個あって、梨、シャインマスカット、デコポン、メロン、桃です。これが優劣つけられないくらい好きなゾーン。その他もみかんとか普通に好きです。フライの日とか、5個入り梨を買ってひたすら食べたりとかしちゃってます。
小さい頃は、家族で出されたものをみんなで食べてたんですけど、一人暮らしだと全部一人で食べるので、贅沢してるなあと思います。「一人でメロン一玉なんて、本当にいいんだろうか?」と。でも、そういうのがあるから部活を頑張れてます。
岡 :嫌いな食べ物は。
江口:刺激が強いもの。たとえば避暑合宿では、たくあんが出ると、青木や森田にあげてました。塩ががっとつまった感じが……そういうクセのあるものに疑問を持ってしまって、ごはんと一緒に「おいしいね」って食べられないんですよ。大人になるにつれて、にんにくおいしいとか、うどんにも七味を入れるとか、ピザにタバスコとか、ワサビとか、少しずつ克服しつつあるんですけど。基本は素材の味でいいって思いますね。
あと納豆も苦手です。艇庫では出るので、食べるんですけどね。粒が小さすぎたり大きすぎたりすると無理で、中くらいの粒がちょうどいいです。
岡 :ひきわり納豆は。
江口:あっ、無理です(即答)。食感がないというか。ねばねばしすぎていて。
要は、素材の状態からかけ離れていくのがいやなのかもしれません。たくあんだったらわざわざ干からびさせなくていいし、納豆だって、わざわざ腐らせなくていいですよね。
岡 :趣味はなんですか。
江口:ピアノとフィギュアスケート鑑賞です。
ピアノは幼稚園生で始めて、10年くらい習ってました。避暑合宿で久しぶりに弾いたんですけど、一度弾き出すと、2~3時間とか、普通にやりますね。はまっちゃうというか。そういうトレーニングっぽいのが好きなのかもしれません。
岡 :楽器って確かにトレーニングっぽい。
江口:楽しくてずっとやっちゃいます。一応家にもキーボードがあるんですけど、やっぱりちょっと弾きづらくて、だからちゃんとしたピアノが山中寮にあったのでわくわくして。「クラシックピアノ100選」とか楽譜もちゃんとおいてあって、「あっ、これ前やったことあるかも」って、少しずつ思い出して弾くのが楽しかったです。
中学で陸上と勉強に打ち込む中で、ピアノの時間が取れなくなったのでやめちゃったんですけどね。それからも、卒業式のピアノ伴奏者のオーディションに受かったりして、そういう場面で弾けるのも楽しかったです。
岡 :私はドラムやってたので、いつか是非セッションを。いつほさんはピアノがすごいし、前川さんはギターマンドリンをやってたと思います。
江口:森田がバイオリンで、青木は歌ができるし、磯崎も合唱やってたし、平松に歌ってもらえれば、何か組めそうですね。
岡 :フィギュアスケートを好きになったきっかけは。
江口:私の浪人期にあたるんですけど、紀平梨花選手という人がいて。トリプルアクセルの連続ジャンプのあとにトリプルアクセルをもう1回決めるみたいな……紀平さんはアスリートとして強いんですよ。世界の注目が集まってきても順調に伸びて、しかも自分なりの意志もしっかり持っていて。15歳の少女なのに、理論派の極みみたいな。いつも無理しなくて、メディアにいくらあおられても、今の自分にできる中で最高の点数が出せるパフォーマンスを冷静に組むし、失敗したら失敗したで、演技中にどう修正するかを考えて、そもそも本番で大崩ししないし、そういうのがすごすぎて……演技が好きっていうのもあるんですけど、アスリートとして尊敬できて、浪人期の心の支えでした。
ボート部に入ってからも、ああいうメンタルの作り方かっこいいなって、参考にしています。今年の北京五輪はケガで行けなくて、もどかしいところもあるけど、またなんかやってくれそうだなっていう安心感があります。そういう人に刺激をもらいながら自分の生活も頑張れてます。
あと、フィギュアスケートに比べればボートって楽だなって思うこともあります。きつさの種類が違うんですけどね。ボートは絶対にミスしちゃいけないわけでもないし、観客も1750m地点くらいにならないといないし。なので、ボートをやっていてきついときは、違うスポーツで頑張っている人のことを心の支えにしてることもあります。レースになると緊張するタイプだったんですけど、「緊張しすぎてもしょうがない」とか、「ミスが起きたら起きたで修正しよう」とか、そういうふうに思えるようになりました。
岡 :今の学科を選んだ理由を教えて下さい。
江口:すごく悩みました。医学部の健康総合学科と、文学部の言語学、教育学部、後期教養で悩んで……今は後期教養の地域科学分科のイタリア地中海コースなんですけど、ここならいろんなものを学べそうだなって思って決めました。言語が好きなんですけど、中でもスペイン語が好きで。西洋言語のルーツはラテン語からきてるので、イタリア地中海に根を置いたら、そこから色んなものが見えてくるんじゃないかなと思いました。
岡 :卒論のテーマは。
江口:ダンテの『新生』という作品に隠れ蓑の女性が出てくるんですが、その人についてです。ダンテが愛してやまないのはベアトリーチェなんですけど、そこでその女性を出してくるのは何故なのか?というテーマです。ベアトリーチェを高次元の愛としたら、その愛に納得感を出すために、低次元の愛の設定が必要だった。そこを乗り越えていく道筋のようなものを作ろうとしたのではないか、と言われています。
岡 :つまりその女性は踏み台ってことですか?
江口:結局はベアトリーチェのためなんじゃないかと……誘惑があって、それを乗り越えていくのを繰り返して、ベアトリーチェに辿りつくという。もしくはそういう人間の愚かさを描こうとしたのかもしれません。イタリア語で書くので大変ですけど頑張ります。
岡 :どうして東大に入ろうと思ったんですか。
江口:高1のとき、先生方が「東大行くぞ」と有望な人に声をかけていて、私にも声がかかったんですよ。東大合格者数を出そうということで、ちょっと戦略的だったんですけどね。「文理選択で迷ってるならとりあえず文系にして東大に行こう」みたいな……私はもともと理系に行く気はなかったのでそれは良かったんですけど。先生にすすめられて、頑張ってみたいなって思ったことが大きいです。結局はアスリート本能と他者との関わりに色んなことが掻き立てられてますね。
岡 :小さい頃はどんな子どもでしたか。
江口:「わんぱく」と「愛され」でしたね。三姉妹の末っ子なので。おじいちゃんおばあちゃんと住んでたこともあって、よく可愛がってもらいました。「さっちゃんがいると家が明るくなる」って、おじいちゃんおばあちゃんも親戚の人も言ってくれて、明るくあることを楽しんでました。あと、自我が強いというか、わがままなところがあって。保育園で、人を傷つけるとかあんまりわからずに、自分なりの正義感をもって強い発言をして、結果先生に怒られることもありました。
岡 :その年齢だったらそんなもんだとも思いますが。
江口:小学 2年くらいのときに「正義感が強い」と通知表に書かれたんですよ。はっきりものを言うタイプ、みたいな……そういう経験を経て、今っぽい性格にぐっと系統が変わり、思いやりを学びました。一方で、あんまり自分を出しちゃダメなんだ、と勘違いしてしまったところもあって。
岡 :小学生でもそんなもんじゃないかと思いますが。
江口:先生の言葉を、必要以上に重く受け止めちゃったのかもしれません。通知表にそういうの書かれるのもいやだったので、とにかく「自分をおさえなきゃ」みたいな……
だから、それからは、人に気を使える優しい子であろうと思うようになりました。他の人はもっと自分をおさえてるんだ、自分より思いやりがあってすごいな、と見えてしまうこともありました。
それが人生の一大転換点でした。
岡 :早い転換点ですね。
江口:あともう一つ、大きい転換点が、陸上を始めたことでした。小3までは特に何の目標もなくずっと遊んでたんですけど、小4で陸上教室に入って。もともと運動会の徒競走は頑張りたいって思ってたんですけど、高学年になってきて、勝つにはセンスだけじゃなくて、ちゃんとした練習が必要だなと思えてきて。お父さんも毎日走るような人で、靴の「瞬足」を毎年新調してくれていて……それで陸上教室に連れて行ってもらいました。毎週日曜日が練習だったんですけど、そこで「何かに打ち込んで頑張る」という一つの軸ができました。
ピアノは先生と一対一の関わりだったけど、陸上は違う学校の子もいるし、そういう出会いがあったのもおもしろかったです。色んな人に出会えてすごくよかったし、何かに打ち込んでる人って素敵だなって思って。そこでスポーツの良さにのめりこんでいきました。
岡 :それでは、小4以降のストーリーをお願いします。
江口:小5、6ともに当たり障りのないことを言うような子になりました。どこか自分の中で引っかかることもありつつ……でも、陸上で出会う人とは自然に話せて、憧れる人とか尊敬できる人もいっぱいできて。そういうのがあってこそ、楽しい人生になったのかもしれません。
岡 :陸上始めててよかったですね。
江口:そうですね。どんな時も明るさを見失わずにいられたのは、陸上の世界があったからかな、と思います。そこに行けばいつもの仲間がいて、打ち込めるものがある、というだけで心の支えになるなと。私が陸上を頑張ることで、家族も喜んでくれました。
岡 :中学はどうでしたか。
江口:地元の公立中学だったんですけど、最初のテストで一番を取ってしまったんですよ。それからは「勉強をしたい」というよりは、「その一番を取り続けたい」という思いで頑張りました。そうすると周りも褒めてくれるし、成績表を家に持って帰る日はなんだか誇らしくなったり。
岡 :陸上部はどんな感じでしたか。
江口:顧問の先生は専門知識があるわけでもないし、練習環境も整ってるとは言えなかったんですけど、陸上の楽しさを知ってたので、自分たちで楽しくするのが楽しかったです。
あと2年生のときに、これも大きな転機なんですけど、800m専門の顧問の先生が来てくれて。私はそれまで100mをやってたんですけど、ちょうど「ちょっと長い距離に挑戦しようかな」と思ってた時期でした。その先生は最大限練習をサポートしてくれて、先生との日記のやりとりがすごく楽しかったです。私は毎日の練習を超細かく書いて、それをいつも先生に報告して、「がんばれ」って言ってもらって……その先生も、前川さんみたいに「やりすぎをおさえろ」と言ってたんですけど、そのときは私何もわかってなくて、「もっと追い込みたいです!」とひたすら主張してたりとか。何かに打ち込むことも、それを支えてくれる人がいるのも楽しくて、すごく幸せでした。
岡 :それでは高校生編をお願いします。
江口:陸上は、中3で県の3番目になって無事に終われました。陸上の道で進学する道もなくはなかったんですけど、将来のことも考えて勉強の方で頑張ろうと。陸上はやりきったし、「もういいや」とも思っていて。でも部活を引退してから、どこか物足りない感じもして。
高校に入学したら、みんな頭良くて、すごく見えてしまいました。しかもみんな、わりと溌溂と勉強について語り合っていて。私は「いい成績をとりたい」というのがモチベーションだったので、スタンスの違いを感じました。
そうなると、やめたいと思ってたはずの陸上部を見に行ってしまって……そこで出会った先輩方も素敵だったし、自分達で考えてやっている感じが印象良くて。前ほど本気じゃなくても、ここでやりたいなと思って陸上部に入りました。
高校では6位まで九州大会に行けるんですけど、中学ではできなかった(※中学は2位まで行ける)「県大会より一つ上に次元に行く」というのを目標にがんばって、それは高2のときに達成できました。中学のときみたいに専門の顧問はいなかったけど、そのときに得た知見もまわりに共有しつつ、楽しんでやれてました。勉強との両立は大変だったけど、その方が自分もいきいきするなって。あと、陸上部はなぜか地方民、大分市外から通ってくる人が多くて、私もそうだったんですけど、その雰囲気も居心地が良かったですね。
勉強の方も頑張ってたら、そこで先生から声がかかって、東大行こうってなりました。
岡 :陸上と勉強、二本柱でずっとやってきたわけですね。
岡 :自分を色にたとえると何色ですか。
江口:中学入ってからは、陸上部はこういう(※この日は鮮やかなピンクのTシャツでした)ビビッドなのを着る文化があって、よく着てましたね。
でも大学に入ってから、イメージ「白」って言われるようになって。ゆるくてふわふわ、ポンドで歩いてる白い子犬みたいな……「あっ、みんなにはそう見えてるんだ」と。自分も色んな服を着る中で、白っぽいものたしかに似合うかもな、と思い始めて。最近はそういう、自分の姿が似合う服を着たいと思ってます。
岡 :服について色々考えてるんですね。自分自身を色にたとえるとどうでしょう?
江口:うーん……でも白かな? いや、でもピンクな気もする。どうでしょうか?
岡 :悩む……(長考)……桜色?
江口:確かに、桜が似合うって言われます。桜を背景にした私の写真があるんですけど、水優ちゃんも、その写真が一番好きって言ってくれました。
岡 :私もその写真好きですよ。私のイメージだと、江口はどちらかというと淡い色で、暖色で、日本の古風な感じもあるので、ピンクではなく桜色、という感じでしょうか。写真のイメージにやられてるかもしれないけど。
江口:じゃあ桜色で! 自分でも納得です。
岡 :どんな人が好きですか。
江口:誰に対してもフラットに接することができる人は尊敬します。誰に対しても忖度せず、ありのままを見せてる感じがして。そういう人って話しやすいし、話すときに気持ちが楽なんですよ。自分の世界がしっかりある人の方が自分も安心できて。
というのは、他人のことを気にしがちなので「今この人、私のことこう思ってるな」とか、そういうの表情から読み取れちゃって。そうなると、ついそっちに合わせてしまうんですよ。でも、誰に対してもフラットな人だと、私もそのままの自分を出せばいいなって思えるので。
あとは論理的な人……自分にないものを持ってる人、ですかね。私は感情的になりやすいので、理系というか、事実ベースでものを考えられる人は尊敬します。私が心地いいと思う人は、相手も広い心を持っている場合が多いです。
岡 :生きるにあたって大切にしていることは。
江口:ああ難しい……これが一番難しいかも。今までは自分がやってきたことの中から話せばよかったけど……(熟考)……今までの自分の行動が、欲望からきていたのか、大切にしたいと思ってやってきたことだったのか、よくわかんなくなってきてしまいました。
岡 :なるほど。
江口:でも、これをちゃんと知りたいという思いがあります。何でしょう……うーん、「やり抜くこと」とか……?
岡 :ちなみにこの項目で青木が私に逆質問してくれたんですけど、私もとっさに思いつかなかったです。難しい質問ですよね……私は義理人情と答えました。
江口:そうですね、本音を言うと思いついてないです。何事も「全力に」というのは大切にしてきたと思うんですけど、大切にというよりは、「そうなっちゃってる」って感じなのかな、という気もして……家族が悩んでいたら何かせずにはいられないとか、そういうのも、「大切にしてること」ではなく、そういう気質というだけなのかも。
岡 :「わかんない」でも全然いいですよ。
江口:岡さんが言ってた義理人情もありますね。でも、それもまた本能というか。困ってる人がいたらその人のために動きたいし、コーチが力を貸してくれるなら全力で応えたい、とは思います。でもそれが「大切にしたいこと」かというと、ちょっとちがう気もして。もっと自分のことを大切にしないといけないな、という気持ちもあったり。
そうですね、とりあえず今はわかりません。
岡 :思いついたら聞かせてください。
江口:メモしときます!(後日江口がブログ(令和4年度東京大学運動会漕艇部 : 本気とは – livedoor Blog(ブログ))で答えを書いてくれたので是非ご覧ください。)
岡 :タイムマシンを使えるとしたらいつどこに行きたいですか。
江口:おお~……(熟考)……自分が生まれる前の家族を見たい、ですね。おじいちゃんおばあちゃんが元気にやってるときとか。お父さんお母さんは、子どもが生まれる前にどんなことをしてたのかとか。若いときのおじいちゃんおばあちゃんのこと見ちゃうと、終わりの見える現在が悲しくなったりしそうで、それが心配ですけど。でも、そのとき見た家族のあたたかさを胸に、今を生きていきたいと思います。
岡 :つまり、自分のことを見に行くわけじゃないんですね。
江口:そうですね。歴史とか見に行くのも自分の知見になりますけど……でも、そういった学問的興味よりも、身近な人が勝りますね。
岡 :どうしてボート部に入ろうと思ったんですか。
江口:最初はフィギュアスケート部に入ろうと思ってたんですけど、上クラの原本さんがサーオリに連れて行ってくださって、そこで出会った華織さんと聖美さんがとにかく素敵でした。あとは組織が大きくて、色々できそうだなということと、陸上の経験が生かせそうだなって思ったこともあります。他には、フィギュアスケートと、アメフトのトレーナーと、チアリーディングで迷ってました。これまで自分の方を中心にやってきたので、サポート側をやってみようかな、という思いもあって。でも考え直して、自由に使える最後の4年間だからやっぱり自分のために使おう、と思ってボートにしました。
岡 :フィギュアスケートはやらなくて良かったんですか。
江口:いや、ボート部入部したあとに、実はフィギュアも入ったんですよ。靴も買って。でも、ボート部の駒トレと乗艇が火曜~日曜ずっと入ってて、フィギュアは月曜で、やっぱりフルに入ってると続けられないなって思って、ボート部に絞りました。
岡 :チームにおける自分の役割を教えてください。
江口:軸であること、ですね。でも、最近そういう感覚も大分なくなってきています。今年の年度立ち上げの時期とか、ジュニア期はそういうイメージでやってました。自分は練習にあたりまえに参加して、漕手として示しをつける、みたいな。「女子部はあんまり練習してない」みたいに思われるのがすごくいやで、一人でもちゃんとやってればそう思われないかなと……そして、自分がそうすることで、周りも安心して練習できるんじゃないかな、と思ってました。
でも最近は、女子部のメンバーそれぞれが主体的に色んなことをやってて、その必要性がなくなってきたなって。存在意義的に淋しいなって思ったりもしたんですけど、でも、自分がちゃんと積み上げてきたものがあるからこそ、今こうなってるんじゃないかなって。ちょっとおこがましいかもしれませんけど、そう思えています。
岡 :それはその通りだと思いますよ。
江口:なんというか、部活っぽくしたかったんですよね。1年生のときとか、女子部はみんなどこか自分に自信がないというか……。だからこそ軸がほしくて。
岡 :どんなチームにしたいと思っていましたか。
江口:1年の冬に明治大学と合同練習をさせてもらったのですが、他大の誰かが「それって明治的にメリットある?」って言っているのをたまたま聞いてしまって……そういう見られ方を変えたかったですね。組織としてちゃんとしたものを作りたいなと。私は、これまでの経験から、「競技で勝つとは何か」とか「強くなるとはどういうことか」とか、そういうのを知ってる方だと思ったので、まずは自分がそれを東大ボート部に還元して、勢いをつけたいと思ってました。
いざ副将や主将になったときは、スタッフやマネージャーも含めての「女子部」として考えてました。それぞれがそれぞれの持ち場で、自信を持って輝けるチームにしたかったですね。「他のやりたいこともやりながらボートに打ち込む」「結果を出せるように、やるときはしっかりやる」という二本柱のイメージでした。それぞれの自由や安全を確保しながら、恥ずかしくないレベルまでちゃんともってく、というイメージです。
岡 :今はそれが体現できているのではないでしょうか。
江口:ほんとに、びっくりですよね。そういうのを目指してる時というのは、実際にはその状態じゃないときなんですよ。だから、どこか雲の上というか。そうなったら素敵だろうな……と思ってたら、今年は東商戦も京大戦も勝っちゃって、やりたかったことが叶って幸せですね。でも、たとえ叶わなかったとしても、私は過程を楽しむタイプなので、作り上げていくことの方に案外存在意義を感じてたかもしれません。だから叶っても叶わなくても、どっちでもよかったかも、とは思います。
岡 :ボート部で嬉しかった瞬間は。
江口:ええー、嬉しかった瞬間……けっこうありそうです。
まず、3年生の時に出たお花見レガッタですね。「スカルで出る」って自分で決めて臨んだレースでした。というのは、もう3年生なのに、東大の女子部はレース経験が少なすぎるなと思っていたので、だからこそこのタイミングで出なきゃと思いました。
実際出てみたら、緊張はするけど、意外と落ち着けてスタート地点まで行けて。レースを通して、今までやってきたことがある程度正しかったこともわかったし、「もっとここをやらないといけないな」って、色んなアイデアがゴール直後に浮かび上がって来て。やっぱりレースって学びが多くて、日常にたくさんのヒントを与えてくれました。それに、出てみたら思ったよりも怖くないってわかって、恐怖に打ち克てた感覚も嬉しかったですね。
あとはなんだろう……やっぱり、今年の東商戦は嬉しかったですね。「あ、勝ってしまった」……みたいな。でも、感情としては意外とあっさりしてました。それ以前はスカルのレースが多くて(お花見レガッタ、3年次の京大戦、学連TT)、その下地があったからこそ、森田と良いクルーを作れたなと思ってます。
江口:あとは、前川さんがコーチとして来てくださったことも嬉しかったです。中2のときに専門的な顧問の先生が来た時の感覚と似てて、とにかく学ぶのが楽しくて。自分のトレーニングがより楽しくなったし、それによって、チーム内での女子部への見方も変わってきて、それを感じられるのも嬉しかったです。男子から「トレーニングのこと教えて」って聞かれたりして、対等になれた感じがして。なので、前川さんに感謝です。
岡 :前川さんには、私もとても感謝してます。
江口:それまでは、色んなものに惑わされていたと思うんですよ。でも前川さんは、「本当に強くなるためにはどうすればいいか?」という大きな視点で話をしてくれて、それって男子も女子も関係なく、広く応用のきくことですよね。そこにしっかり向き合えたら、いろんなしがらみとか、心のもやもやとか消えて、トレーニング自体を楽しんでいこう、積み上げていこう、と思えるようになりました。前川さんが来てくれたことで着眼点が変わったというか。強力な助っ人だったと思います。それで結果的に、私が求めていた女子部像になったなって。
岡 :片山さんが離れてから前川さんが来るまでは私がメニューを作っていたのですが、あのまま私が作ってたらどうなってたかな、と思うとちょっと怖いです。私は知識の裏付けも何もなく、見よう見まねでやってたので。
江口:知識って本当に武器だと思います。
岡 :そもそも、こういったトレーニング理論って、誰も考えてこなかったのかな。
江口:断片的には学ばれてきたんだと思います。たとえば2年のとき、朝倉さんが女子の陸トレの担当をしてくださってたんですけど、今思えば、言ってることは前川さんと一緒なんですよね。でも、前川さんはそれを体系として、年間計画としてどんと持って来てくれたというか。すごくわかりやすい形で持ち込んでくれて。たぶん、大枠は東大ボート部がやってきたことと通じるんですけど、トレーニング理論を学ぶことで、やりすぎを防止するとか、ちょっと工夫をきかせるとか、そういうことができるようになって。その差が結局大きかったんですよね。
岡 :前川さんの話で盛り上がってしまいました。
他に嬉しかったことはありますか。
江口:今年の東商戦と京大戦は、みんなが喜んでるのが嬉しかったです。ちょっとお節介なんですけど、それぞれ不安定な時期を経てきているぶん、よけいにそう感じました。
岡 :結果って、そういう意味で大事かもしれないね。これまでやってきたものを保証してくれるものがあれば、わかりやすく自信につながる。
江口:あと、学生コーチにここまで見てもらえたことも嬉しかったです。向井さん、聖美さんという学生コーチがいてくださることで女子部の安心感の土壌を築けて、そういう点でもよかったなって。こんなに見てもらえて、すごく感謝しています。
岡 :ボート部やってきて、しんどかった瞬間を教えてください。
江口:なんというか……だいたいは、自分のことを恥ずかしいと思う瞬間ですね。思わず自分を出し過ぎて、「やってしまった……」みたいな。先ほどの明治との合同練習の話だったら、「じゃあいい女子部を作ってやろう」という原動力に変えられる。でも、自分が言い過ぎたとか、やらかしたとかだと、恥ずかしさで艇庫に行きたくないって思っちゃったり……
でも、最近はそういうのも許しつつあって。人生は恥ずかしさのぶつけ合いだよな、とも思えてきました。ちょっと自分を出し過ぎたとしても、そのことで「この人はこういう人だ」って変なレッテルを貼られることもないってわかってきて。きっと大丈夫、と思えるようになりました。
岡 :思いが先走りすぎて「やってしまった……」となることはありますよね。
江口:あと、これはそういう経験を通して学んだことなんですけど、ただ思いを相手にぶつけてはダメなんだな、ということを学びました。相手の気持ちも考えて、「じゃあどう伝えるのが一番いいのか?」という視点が持てたことは大きな学びです。文面だけじゃなくて、ちゃんと話し合うことが大事だなとか。当たり前といえば当たり前なんですけど、ただ怒りをぶつけるだけでは聞いてもらえないですよね。
岡 :相手との関係性にもよると思います。同期どうしだったら、雨降って地固まることもあるので、ぶつけた方がいい場合もある。どの程度ぶつけて、どの程度配慮するかは、さじ加減でやってくしかないと思います。
江口:あとは、集団の雰囲気に流されて、思ってないことを言っちゃったり、同調しちゃったり、違うと言えなかったり、そんなこともあって。そういうのが悔しかったです。自分の信念をしっかり取り戻したいなと思います。
岡 :他にしんどかったことはありますか。
江口: 女子部と男子部の活動が分かれたときに、壁を感じてしんどいというのはありました。距離ができちゃって、「女子は練習やってない」って見られるんじゃないかと思ってしまって……でもそれは、だからこそ聖美さんと練習しよう、という形で消化したんですけどね。ここは、今後も新人女子がつまずきやすいポイントかもしれません。
岡 :ボート部やってて、自分が変わったなと思うところは。
江口:人との関わりの中で、自分を客観視できるヒントが増えました。生き方を変えてみようって思えるようになったというか……色んな気づきがありましたね。「全力」が必ずしも良いことじゃないこと。人に気を使い過ぎて何も言わないのは良くないこと。チームを作っていく上で、話していくことが大事ということ。ただ自分が良いパフォーマンスを出せばそれでいいわけじゃないということ。トレーニング知識を得て、スポーツとの向き合い方を考えて、その上で強くなっていくこと……本当に色々あります。
岡 :今までのエピソードと一つ一つ繋がりますね。
岡 :では逆に、ここは変わらないなって思うところは。
江口:意図しなくても、周囲の問題に一緒に向き合おうとするところは変わらないと思います。自分にとっては当たり前なんですけど、みんながみんな、それをするわけじゃないですよね。
岡 :そういう人の方が最近は少ないかもしれませんね。個人主義と言うか、自分が良ければいいみたいな風潮もあるので。
江口:そういう時代になってきたので、このままだと自分が生きづらくなるのでは?という危機感もあるんですよ。でも、人のために動くことで楽しくなれる自分も知っていて……自分のこういうところを、必ずしも変えたいって思ってるわけじゃなくて。就活用語っぽく言うと、共感力の高さが自分の良さなのかな、と思ってます。
岡 :あるドラマの中で、「人のために何かをするってことは、自分を大事にしてないってことになるのかな?」という問いかけがありました。それに対する答えが、「誰かのために、って動いてるときが、一番自分らしかった気がする」という答えになるんですが……人のために動くことを苦しいと感じるなら、もっと自分を大切にした方がいいと思うけど、やりたくてやってるんであれば、それはそれで素敵なことだよね。
江口:私の場合は感情が暴走することもあって。「自分がこんなにやってるのに、他の人はなんでやらないのか?」と思ってしまうと不満だけが残る。頑張ったのに報われない……というか。そこまでいくと良くない状態なので、頑張りすぎないことも大事だなって思ってます。しっかり相手と向き合って、一緒に考えていくというスタイルは、自分のリーダーシップの良さだと思うので、そこに関しては良いと思うけど、日常の些細なところでは、もうちょっと消耗しないようになりたいと思います。
岡 :ボート競技の魅力を教えてください。
江口:うーん、そうですね……(熟考)……うまくハマったら本当に止まらずに、上手く進むことができるところですかね。実は私、自分の漕ぎが「これ」っていうのがあんまりなくて。割と漕ぎを変えていってしまうので、良い感覚が引き継がれてない感覚があって。2年生のあのときの方が良かったよなとか、ちょっと退化してるような気もしていて……
岡 :でも、自分の漕ぎに固執せず、変えていけるのは強みだと思います。
江口:そんなに変わってない気もするんですけどね。背中の丸みとか新人期からずっとだし、もはやトレードマークみたいな。最初は本当に思うがままに漕いでいて、あまり正しいところにいけている感じがなかったので、大改造をいとわないのかもしれません。
岡 :ボート部の魅力を教えてください。
江口:何かに打ち込んでる人が集まってるところ。本気が受け入れられる環境がある。私自身、ふらふらと色んなことに手を出すよりは、何か一つを頑張りたい人なので、そういう人が集まっているのは心地良いですね。
岡 :ボート部で後悔していることは。
江口:後期課程の勉強をもうちょっとやればよかった、というか……どうしてもボート部のウェイトが勝ってしまって。これはこれで悔いはないんですけど、1日1時間とかでもいいから、もうちょっと勉強の習慣をつけたかったなと思います。その方がたぶんメンタルも安定するんですよ。今年は特に、就活が終わってから人生がボート一色になってしまって、そっちの方が考えすぎて病みがちだったというか。ある程度ノイズがあった方が人間うまくいくのかなと。
岡 :一点に集中するとドツボにはまりますよね。
江口:他には……特にないですね。しんどかったことは色々聞いてもらったと思うんですけど、それを消化して今に繋げられているので、結果的に良かったなって思うことが多いです。
岡 :私は後悔してることしかないかもしれません。当時は「消化して次に繋げる」という発想すらなかった。
江口:消化するまではどん底なんですけどね。でも、最近思うんですけど、負の感情にいきたいというのもある意味欲望なのかなって……たくさん悩むことで、「負の感情にいきたい」という欲が満たされるというか。どん底まで行ったら、次に行きたい、という気持ちがそのうち湧いてくるんですよ。冷静に負の感情を食い止めて次に、というのはなかなかできないんですけど、悩みに悩んだ末、「もうそこにいなくてもいいんじゃないかな」って思えたら、次への気力が湧いてくる。私はそんなタイプです。
岡 :私は24時間365日、ネガティブゾーンにい続けるタイプかもしれません。
江口:私もポジティブではないですよ。悩む時は、本当にけっこう悩むので。トータルで見れば負にいるけど、その中での上下動がある感じですね。周りからはなぜか「陽」と見られがちなんですけどね。負を乗り越えようという意志は持てているから、そう見えるのかもしれませんが。
岡 :それが強さというものですよね。
岡 :引退までに成し遂げたいことは。
江口:自己犠牲を過度にせず、自分を大切にすることが、結局チームを大切にすることになること……それをわかりたいです。なんで「自己犠牲」と思っちゃうのかというと、不満に思う時って、実は自己犠牲ではなく、自分が大好きで自分に向き合い過ぎているために、他者の存在を邪魔に感じてしまっている、ということなのではないかと……。いいフロー状態で人に尽くして、自分のことも相手のことをフラットに考えているなら、他者のことを邪魔には思わないはず。つまり、自己犠牲に感じてる時って、自分が結局勝ってしまっていると思うんですよ。
岡 :自己犠牲はおもしろいテーマですね。そもそも自分が満たされてないのに人に尽くすって限界があると思います。
江口:自分が不機嫌だと周りにも気を使わせて、チームとして健全な状態ではなくなってしまいますよね。やっぱり自分を満たすことがチームとしても重要で、それが自分を大切にすることの意義なのかなと……そうじゃないと他の人を幸せにはできないですよね。
岡 :理屈では分かるんだけど、私はまだ、それが実感できてないですね。もう何年かかかりそうな気がしています。
江口:私はメントレでの学びが大きかったです。チーム全体として「ご機嫌であること」に価値をおいたなら、それはみんなで守る責任があるという話で。「いつもにこにこでいなさい」とかそういうことではなく、自分の機嫌を自分で取ろうとすることが大事ですね。
あとは冨田さんが、先日の女子部ミーティングでクルーボートの話をされていました。たとえばダブルに乗ってて、相手がちょっと舟を傾けてる場合、相手に対して何も言わずに自分で調整するとなると、1人で2人分頑張ることになってしまう。でも、「今、私はあなたに合わせてこうしてるんだよ」と伝えることで、相手も「じゃあ自分もちょっと変えなきゃ」って思ってくれて、負担が半分になるし、自分だけ頑張ってるみたいな感覚も減る、というお話でした。
ボートでは、競技相手は違う舟に乗っているのでコントロールできないけど、自分のクルーのことはある程度コントロールしなきゃいけないということですね。そしてそういうときは、自分か相手か、という視点ではなく、舟のためにどうするか、という視点で考えると良いみたいです。「自分だけが正しい」って思うと自分もしんどいので、舟を進めるために建設的に話し合って、「自分ばっかり」って思わない状態にすることが大事、と冨田さんが言っていました。
まずは自分でちゃんと言って、伝えて、負担を減らしていくことが大切だなって。そうなるとやっぱりコミュニケーションが大事ですよね。
岡 :どんな大人になりたいですか。
江口:まず、自分の信念や声に耳を傾けられる人でありたいです。状況によっては周りに流されてしまうというか、そこが弱くなっちゃうときがあるので。そして、それをうまく人に伝えられるようになりたいです。こちらの言いたいことをそのままぶつけるのではなく、そしておさえるのでもなく、相手にちゃんと伝わるように伝えていく、ということですね。
あとは、学び続けられる人でもありたいですね。何か学んでいないと、信念も揺らぎやすいというか、ふわんとしちゃうところがあるので。
岡 :これを読んでいる方々にメッセージをお願いします。
江口:私も、自分の恥ずかしさを人に見せたり感じたり、たくさん迷いながら進んできました。そして、いつも完全でいることはできないことも、ようやくわかってきました。だから、そうした自分の不完全さも、受け入れながら生きていきましょう!……変なメッセージになってしまいました。
岡 :良いメッセージですね。ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
主将としてたくさん悩みながらここまでたどりついた、その軌跡がよくわかるインタビューでした。
私も現役時代は女子部の主将で、江口の問題意識と似たようなことを考えていました。
でも江口は、人と向き合うことから決して逃げず、うまくいかないことを繰り返しながら、チーム内で対話をかさね、ひとつひとつ乗り越えてきました。
彼女の思いが一つの形として実り、私の想像もつかなかった女子部に育ってくれたことをとても嬉しく思います。
インカレでは、これまでやってきたことを精一杯表現してきてほしいと願っています。
女子部コーチ
岡

















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