実況中継

エルゴモニターの残り時間が5分になったところで、朦朧とした意識の中に考えが過ぎった。
エルゴは人を映し出す鏡だと言う。本当だろうか。

女子部主将の青木は、どう思うだろうか。
先日の2000で素晴らしいタイムを叩き出した彼女なら、なんと言うだろうか。以前はcoxをやっていただけに、思いもよらない価値観を持っているのかもしれない。久しぶりに彼女のコールが聞きたくなってきた。

ー残り4分30秒。
漕手の飯島なら、なんと答えるだろうか。
そんなことあるわけ無いと言うだろうか。虚実混じった皮肉混じりの一言を貰うだろうか。
それでも自分は、彼に隣で漕いで欲しいと、今この状況に身を置いて欲しいと、そう願ってしまう。

ー残り4分。きつくて色んなことがどうでも良くなってきた。
男子部主将の石綿なら、どんな気持ちでエルゴを引くだろうか。
この時ばかりは、主将という肩書きも何も忘れて、没頭して向き合っているのだろうか。雑念だらけで引いている自分とは、全然違うのだろうか。副将と主将は分かり合えないのだろうか。でもやっぱり、それはどうでもいいかもしれない。

ー残り3分30秒。表示心拍を見ると、このまま死ぬんじゃないかという気がしてくる。
会計の小栗なら、今の自分を何と言うのだろうか。
自分が気づかない所で助けてもらっているのだろうと考えると、頭が上がらない。でも今は頭を下げている場合じゃない。フォームが崩れる、前を向け。

ー残り3分。残り2分までこのペースでいきたい。
チーフマネージャーの川上なら、この姿をどう見るだろうか。
彼女はサポート部門にも所属し、怪我ばっかりする自分を見ているので、こんなところで痛めるなと思うのかもしれない。もちろんフォームも意識していると、心の中で答える。

ー残り2分30秒。肩の力みが取れきた。
マネージャーの中山なら、どれくらいエルゴ回すのだろうか。
マネージャーに転向する前にもエルゴをぶん回していたが、基本的に器用なんだろう。勉学に勤しみながら部活にコミットする姿を見ている。久しぶりに彼の漕ぎも見てみたい。

ー残り2分。止まりたいと、弱い自分が現れそうになる。
マネージャーの波江野なら、今何て声をかけるだろうか。
彼女は広報チーフだが、流石にこの練習の様子は広報できないだろう。でもきっと、応援してくれている。

ー残り1分30秒。口が半開きで涎が垂れてきたが、拭う暇も無い。
漕手の村主なら、どうだろうか。
隣で漕いでいるが、表情までは分からない。彼は面が良いので、僕と同じような顔はしていない。でも、同じような表情をしているのだろう。でも多分涎は垂らしていない。

ー残り1分。世界一長い1分だと思う。
主務の吉田も、同じ感想を抱くだろうか。
頑張ってここまでエルゴを引いてでしか、ラスト1分の時間は得られない。そんな貴重な1分だと思えてくると、そんな時間を守ってくれる彼のことを尊敬してしまう。
それだけに、今、僕は、本気でやっている、ここにいる人たちに顔向けできるようなことが出来ているかと、不安になってくる。

ー残り30秒。
エルゴは人を映し出す鏡?きついことやってでしか、その人の価値を測れないなんて、そんなことがあってたまるか。
じゃあ、なんで今自分はこんなきついことやってるのか。

残り0秒。引き終わって残るのは、達成感と虚無感。拍手も遠くで聞こえる気がする。
なんでこんなことやってるかって、自分がやりたいからやっているんだと、そんな当たり前のことに気づいた。
やっぱりエルゴは人を映し出す鏡なのかもしれない。仲間のことを考えていても、全然関係ないことも考えていても、結局最後は、エルゴと向き合いながら、自分自身とずっと向き合っているのだから。

以上、4年男子部副将の田中でした。

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↑アルバム撮影前の3人

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