こんにちは。
女子部コーチの岡です。
ついにインカレ初日ですね。
女子舵手付きフォア「こゝろ」のレースは本日14:04発艇です。
どうぞ応援をよろしくお願いします。
さて女子部解体新書シリーズですが、今回よりコーチ・監督編に入ります。
選手5人に対してちょっと多すぎるくらいの陣営ですが、それぞれの得意なことや好きなこと、持ち味や人間味を生かして、密に連携を取りながらやってきました。
インカレ真っ只中ですが、女子部の舞台裏を覗くような感覚で楽しんでいただけたらと思います。
コーチ編第一弾は学生コーチの向井さんに登場していただきます。
艇庫に何度も足を運び、現地での技術指導を一手に引き受けていました。
微に入り細を穿った独自のフィードバック、その積み重ねがなければ、女子クルーとしての飛躍はありえなかったと思っています。
是非お楽しみください。
~2022年8月26日・電話にて~
岡 :よろしくお願いします。
向井:よろしくお願いします。
岡 :それではまず、お名前と入学年度をお願いします。
向井:向井一晃です。入学年度は平成29年(2017年)です。
岡 :好きな食べ物と嫌いな食べ物を教えてください。
向井:好きな食べ物は、和食全般ですね。だしの味のするものはだいたい好きです。でも、だしの味がしないお刺身も好きです。
嫌いな食べ物はほぼないと思ってて、基本的にどんなものでも食べられるんですよね。でもなんだっけな、何かあった気がする……そういえば、セロリはあんまり好きじゃないですね。とくに生のセロリはちょっと理解できないです。
あとは……うーん、好きな食べ物も、他にもある気がするんですけど、好みがそう大きくふれないというか。「めっちゃ好き」とか「めっちゃ嫌い」とか、あんまりないのかもしれません。実は最近、食事関係でちょっと悩みというか、思ってることがあるんですけど、食に対して、自分は他の人と比べて興味がないのかなっていう気がしていて。何か食べてるとめちゃ幸せ、みたいな人いるじゃないですか。そのときだけは嫌なこと全部忘れられるみたいな……その気持があんまりわかんなくて。
岡 :なるほど。振幅が小さいという……
向井:そうですね……楽しいこと・好きなことはあるんですけど、自分のマックスのテンションと他の人のマックスのテンションの間にはギャップがあるような気がしています。喜びの表現の問題かもしれないです。
岡 :近況を教えて下さい。
向井:大学院の2年生です。農学部生命科学研究科の応用動物科学専攻で、内分泌を扱う研究室にいます。ホルモンなどの信号や刺激が伝わる仕組みを解析しています。自分は実験をほとんどしてなくて、紙とペンとパソコン使って、シグナル経路の数理解析をしています。シグナルの伝わっていく経路について数理モデルを作って、数理モデルを作ることで、実験しづらい箇所の予測を立てられるようになるんですよ。シグナルがこう変わったらこうアウトプットが変わるんじゃないか、と。修士論文はこれから書いていきます。
岡 :忙しいところ、日々のコーチング本当に感謝です。避暑合宿も、京大戦に続いて二往復してくれたみたいで、本当にありがとう。
向井:移動するの好きなんで、リフレッシュにもなるんですよ。電車とかバスに乗ってるだけでも好きだし、普段と違うところに行くのも好きだし、全然苦じゃないですね。
岡 :卒業後の予定は。
向井:ネットワークセキュリティの会社に就職して、システムエンジニアの仕事をやります。コードを書く業務がメインになる予定です。今も実験でプログラム書いて、計算したり、結果をグラフにしたりしてるので、それの延長と言えば延長かもしれません。プログラム書くのはけっこう好きですね。バイトでもプログラム書く作業をしています。
岡 :やりたいことが一貫していていいですね。
向井:最後になって繋がったなって感じですね。実は僕、実験がすごく苦手なんですよ。細胞の実験だと、ちゃんと薬品の量を測らないといけないし、時間もしっかり測らないといけないし、そういうの失敗するとゼロからやり直しになっちゃうので。料理なら、途中で失敗したとしても、食べられる状態まではどうにか持って行けるじゃないですか。でも実験ってそういうもんじゃないので、それがきついですね。今パソコンでやってる作業も、失敗したとしてももう一回書き直せばいいだけなので、なんとかなってるところがあります。
もしかしたら、習字とか習っておいたらよかったかもしれないですね。
岡 :習字とは?
向井:一発勝負系みたいな、そういう習い事を一つでもやってたら、もうちょっとマシな性格になったかもしれません。試合もそうなんですけど、一発勝負系があんまりうまくなくて。ボートは試合でやることが練習と同じなので、まだ良かったなと。たとえば野球だったら、どんなボールがくるとか、どんなプレーになるとか、その場にならないとわからないじゃないですか。ボートはやってきたとおりに漕ぐのがほとんどなので、まだ自分に合ってたと思います。
岡 :現役時代はどんな選手でしたか。
向井:整調をやることが1年生のときから多かったですね。エイトだったら2番に回ることもあったり、端の方にいることが多かったです。体型が細い方なので、もちろん身体を大きくする努力はするけど、技術だけは誰にも負けないようにしたいって、ずっと思ってて。それはある程度形にできたんじゃないかなと思います。
艇庫生活レベルだと、色んな人と話す方でした。マネージャーやスタッフとも話すし、もちろん選手とも、後輩とも話すし。後輩から見て威厳があるタイプではないというか、まったくなかったと思うんですけど、とりあえず色んな人と話していました。
あと、艇庫でやってたことっていうと、艇庫が台風で浸水したあたりから、Wi-Fiをよく調整してました。他にやる人がいなかったので。あと細かいところですけど、艇庫の色んな備品、ボディソープとか、アルコールとか、ハンドソープとか、そういう買い出しから漏れがちなものを調達してました。僕がとりあえずネットで買って、会計にお金を請求するという。サブ買い出しみたいな役割です。
岡 :すごく大事な役割ですね。
向井:今も、平川がアルコール注文やってくれたりとか、細々と引き継がれてると思います。ネットで注文するのに得意不得意があるかはわからないけど、アマゾンで注文とか、僕はわりと息をするようにできるんですよ。ないんだったらとりあえず注文しようと。注文すれば1日か2日で届くし、次の買い出しを待つより早いし、大量のボディソープ買って運んでくるのも大変なんで、ネットで買えばいいんじゃんってことで、よくやってましたね。
あと、勉強部屋の照明がめっちゃ高いところにあるんですけど、蛍光灯が切れかけてきたときに、そのための梯子を買ってきたのも自分です。外に置いたら2階の窓から入れそうなくらいのばかでかい梯子でした。
岡 :それは相当大きいですね。
向井:いやそれは言い過ぎました。でもけっこうでかいやつです。今も勉強部屋の端っこに寝かせてあります。登場機会はその蛍光灯を替えるときくらいしかないんですけどね。
几帳面なタイプではないんですけど、その気になったら、ちょっとめんどくさい修理や整備ができる方ですね。自分の家だったらやらないかもしれないけど、艇庫ではよくやってました。カスタマイズとか、色々いじったりとか、小技・小道具的なのも好きです。ちょっとしたものを買って付け加えて機能をアップグレードしたり。たとえば、スマホのカメラとかパソコンのインカメにつける広角レンズっていうのを持ってて、それをつけると普段の視野よりも広がるんですけど、そういうちょっとした工夫みたいなのはよくやります。
あとトレ部屋のダンベルの中で、おもりの部分は棒にネジでくるくる止めるんですけど、使ってるうちにネジが緩んでくるやつがあるんですよ。そういうのもよく締めてましたね、使う前にくるくるくるって回して、きゅってやるだけなんですけど。そういう細かいところに気づいちゃうところがありますね。
岡 :私はそういうのに気づかないタイプで、気づいても「まあいんじゃん」って思っちゃう方なので、すごいなと思います。
向井:僕もそういうところあるんですけど、一度その気になるとしっかりやっちゃいますね。
岡 :ハウスキーパーのようですね。
向井:艇庫管理人と呼ばれていたこともあります。
岡 :女子部コーチを引き受けようと思った理由を教えてください。
向井:特に、断る理由がなかったみたいな……それはちょっと消極的ですけど。単純に、後輩に対してできることがあるならしたいなって、もともと思ってました。どういう経緯で決まったかはよく覚えてないんですけど……去年は06の新人トレーナーをやっていて、トレーナーが終わった段階で仕事がなくなったから、女子部のコーチに選ばれたのかな。そんな流れだった気がします。
岡 :一昨年の京大戦クオドに乗ってくれたのがすごく印象に残ってます。
向井:そういうこともあったので、女子部と比較的親和性が高いんじゃないか、向井ならすっと入れるんじゃないかみたいな、そんな空気もあったかもしれません。
でも実は、昔のことって全然覚えてないんですよ。昔のクルーのこととか、レースの展開とかも、整理して頭にしまっておけなくて。僕の同期の宇都なんか、そういうのすごく覚えてるんですけどね。だから、自分が女子部コーチになった経緯とかも、なんとなくしか覚えてないです。
でも、後輩に自分なりのやり方で伝えられることはあるんじゃないかなって、そういうのは思ってました。僕が先輩から教わったことと、自分で考えて編み出してきたこと・僕オリジナルのやり方みたいなものもあって。コーチングしながらそういうのを伝えて、選手にはうまく咀嚼してもらって、いいものは受け継いでいってもらえれば、という気持ちもありました。自分の中だけで終わっちゃうと、それがいいものだったのかもわからない。もしいいものだったら、今後も残っていってほしいなと思って。これが、後輩のコーチをしたいという、僕のもう一つの気持ちみたいなところですね。
岡 :確かに向井さんのフィードバックは、向井さん自身の言葉という感じがして、すごくいいなと思ってます。
向井:そうなんですよ。実は先輩から、細かい技術を教えてもらった記憶があんまりなくて。もうちょっと「もっとなんかあるんじゃないか?」というか……うまく漕ぎたいなら、もっと考えるべきじゃないかなって思ってたところもあります。
ただ難しいのは、こういうのって、どうしても自分が根拠になってしまうところですね。「自分はこうやったらうまくいった」ということになってしまう。だからそれを押し付けるのも申し訳ないと思いつつ、「ちょっと試してみて」という感じでよく伝えています。そういうのやってるうちに、「これで合ってるんだな」って、僕自身も自信がついてきたりとか。そういう自分の中での変化もありながら、その都度伝えたいことを伝えてます。
岡 :ボートへのこだわりを教えてください。
向井:ボートって、根本的には、「自分の身体が出せる力をうまく伝え続けること」と、「動かした舟の動きを邪魔しないこと」と、この二本立てですよね。当たり前といえば当たり前なんですけど。それってまず間違いないことなので、それが土台にあります。
「自分の身体が出せる力をうまく伝え続けること」、つまり出せる力を最大限発揮するってところでは、パワーをつけることも大事だけど、上手く力を伝えるやり方が絶対あるはずなので、それをよく意識してました。身体をうまく使うというところだと、そういうのが上手い人って、色んなスポーツにいると思うんですよ。野球のイチローさんとか、陸上の武井壮さん、為末大さんとか。そういう人たちのしゃべってるYoutubeをよく見てましたね。
ボートのコーチングって、「もっと長く押せ」みたいによく言いますけど、「じゃあどうするんだ?」というのがわからないコメントがけっこう多いなと。でも、「もっと長く押せ」と言われるということは、なんか自分が違うことをしてるわけですよね。「じゃあどうするんだ?」というヒントを得るために、違うスポーツの人たちの考え方を参考にしてるところはありました。
あと、自分は身体の使い方が上手くないんだなっていうのはずっと思ってて。というのは、高校のときにバレーボールやってたんですけど、そのとき監督に「いやそうじゃない、こうするんだ」って何かについて言われたことがあって。目の前で見本をやってくれるんですけど、「こうですか?」って僕が真似したら「いやちがう」と。そのやりとりが何回かあって、つまり、「こうですか?」「いやちがう」「こうですか?」「いやちがう」「こうですか?」「いやちがう」と……結果、そのとき先生の機嫌がそもそもよくなかったのもあって、めっちゃ怒られたんですよ。おまえはどこを見てるんだと。おまえの目は節穴かと。
岡 :節穴……
向井:すごく理不尽に怒られたなと思って。でもそのとき、自分は、見たものをそのまま真似するのは上手くないんだって認識しましたね。自分では「できてる」って思ってても、何か違うことをやってるんだろうなって。
そういう経験はボート部入ってからもやっぱりあって。上手い身体の使い方を真似してるつもりでも、傍から見るとできてないってことが、自分は多々あるだろうなと。なので、僕はエルゴやる時とか、よく横に鏡を置いて、自分ができてないことを見つけようしてました。細かいところに目がいく性格もあいまって、ちょっとでも無駄の少ない漕ぎをしようって、少しずつ直していく感じでしたね。これは僕自身の、ボート上手くなるためのこだわりの話です。
岡 :艇庫管理人の話と見事に繋がりましたね。
向井:あと、他のスポーツの動きと通じる部分がところどころあるんじゃないかなって思ってました。たとえば僕はバレーでよくジャンプしてたんで、まあそんなうまくないんですけど、ボートの前の跳ね返りと多少似てるじゃないですか。他のスポーツの動きからボートに応用できるものはないかなって、よく考えてました。バレーの動きだったら、せっかく自分の中に持ってるものなので、形を変えても使えるなら使いたいなって思ってました。
自分の力を最大限伝えることと舟を邪魔しないこと、どちらも身体が思い通りに動いてないと結局できないですよね。そういうところで、他のスポーツも取り入れつつ、自分の経験も取り入れつつ、色々試行錯誤しながらやってきました。
岡 :他のスポーツを参考にする考え方は私にはなかった。とても柔軟で良い考え方だと思います。
向井:ボートってあんまり情報ないじゃないですか。ボートの有名人っていったら、もちろんボート界ではいますけど、世間的にはあんまりいないというか。本も少ないし。他のメジャーなスポーツだと、競技のことはもちろん、陸トレのときに何を考えるとか、色んな話が見れるので、なんか使えるものあるんじゃないかなって。それこそ為末さんとか武井さんとか、そういう人からインスパイアされつつやってました。
岡 :コーチをやってきた中で嬉しかったことは。
向井:「もっとこうしたらいいんじゃないか」と選手たちに色々伝えて、そういうのも伝わったり伝わらなかったりなんですけど。それで選手たちか漕ぎを変えていって、その結果として、納得できる形でエルゴのタイムや艇速上がったりして、それで「艇速上がりました!」みたいな報告がくるとき……ですかね。その流れでレースのいい結果が出る、ということももちろんありますけど。東商戦も京大戦もどっちも勝ってくれましたが、特に東商戦は、良い漕ぎをしてくれたと思ってます。本人たちも納得いってるんじゃないかな。京大戦はちょっと不完全燃焼感がありましたけど。
あと、自分が言ったことじゃなくても、何かのきっかけで「こうやったら良くなった」とか、そういう報告も聞くと嬉しいですね。漕ぎを変えられるってすごいことだと思ってて。ボートって、変えてるつもりで変わってないとかよくあるじゃないですか。「変えました」って選手が言っても「ほんとかそれ?」みたいな。
岡 :確かにありますね。
向井:だからこそ、「あっ確かにこういうふうに変わったな」と思える瞬間があると嬉しいです。特に女子部の選手は、そういうのがわりとできるなって思ってて。乗艇後のミーティングでも、「こういうところを変えてうまくいった、うまくいかなかった」みたいな、そういう話ができてるのが良いと思います。
岡 :建設的なミーティングですね。
向井:もちろんうまくいった方がいいですけど、うまくいかなかったとしても、僕が言ったことに取り組んでくれて、「こうでした」っていうフィードバックがあると嬉しいです。彼女たちもそれを糧に成長していけるし、僕も経験値がたまっていくというか。そういう取り組みはおもしろいと思いますね。
岡 :私は月2回しか艇庫に行かないのですが、見に行くとほぼ100%の割合で「向井さんがこう言ってくれて、その結果こうなりました」という話を聞きます。だから、向井さんが伝えてくれてることが本当にいっぱいあるんだろうなって思うし、選手もちゃんと受け取っているのを感じます。
向井:選手たちは、うまく咀嚼してくれてると思います。僕があんまり整理して伝えられてないときもあるんですけど、それぞれうまく落とし込んで、取り入れてくれたりして、そこは助かってますね。
岡 :コーチをやってきた中で大変だったことは。
向井:個人個人の漕ぎ、細かいところに目をつけるのは得意なんですけど、全体を見るのがあんまり得意じゃなくて。そういうマクロな悩みが選手から出てきたときにうまく対処できてないなって思う時があります。こういうとき宇都がいてくれるとすごくいいんですけどね。高岡とかもそういうのが上手くて、そこは僕が力不足を感じてるところです。
岡 :なるほど……それは知りませんでした。
向井:特に宇都は、舟の動き全体を見るのがうまいんですよ。僕ももちろん見るんですけど、なかなか宇都ほどの目にはなれないなって。あとは、クルーとしてどこに向かっていくか?みたいな、そういう方針を考える時に、もうちょっとうまくアドバイスできたらなって思うこともあります。もちろん僕は漕がないので僕が決めるわけじゃないですけど、リーダーシップ的なものをもうちょっと取れてもいいのかな、っていう気がしないでもないです。
岡 :クルーとしての方向性は、外からコーチが言うのではなく、クルー内で話し合って決められればいいかなとは思いますが。
向井:結局はそうなんですけど、たとえば選手の方から二つの案が出てきて、選手の中で決めあぐねたりするときに、うまくアドバイスができればいいなと。正直よくわかんなくて「どっちでもいいんじゃない?」とか言っちゃうこともあるんですけど……仮にどっちでもよかったとしても、選手としては「もうちょっとなんか言ってくれよ」ってなりますよね。
岡 :そこは確かにそうかもしれません。
向井:そこは自分がうまくできなさそうなので、他の人にも手伝ってもらおうかなって、ちょっと思ってます。
岡 :ちなみに自分は、そもそも漕技を見るコーチってことで入ったはずなんだけど、やっぱり月2回しか行かないと、正直わかんないなというのが悩みです。フィードバックも細かくないし、いつもほんわりしたことしか言えなくて悩ましい。
岡 :ボート競技の魅力を教えてください。
向井:水の上を滑るのは単純に気持ちいいですよね。ちゃんと漕げるようになったらわかることですけど。あとは、屈強な男……いや男でも誰でもいいんですけど、屈強な人間が4人や8人乗ったところで速いとは限らない、少なくとも息が合ってないと進まないし、そこそこ上手い人集めても、合ってないとあまりいい結果にはならない、そういうところがおもしろいなと。ちょっとしたタイミング、ちょっとした身体の動かし方が合うか合わないか、そういうのがタイムに直結するところが良いと思います。
岡 :東大ボート部の魅力を教えて下さい。
向井:今って、大学生だったら一人暮らしの人が多いじゃないですか。ごはんは部活やサークルの友達と一緒に食べたとしても、結局そのあとは家に帰って、シャワー浴びて寝るみたいな。最後には一人になって寝て、一人で起きるわけですよね。でも、ボート部だとそうはならない。一緒にお風呂入って、一緒に寝るという、ここまでセットになってるとけっこう違うというか。より濃い人間関係になると思います。現代社会にはびこる孤独感を、この艇庫は寄せ付けないですよね。もちろん、その瞬間その瞬間では一人で塞ぎこんだりとか、そういうのはあるかもしれないですけど、概して孤独とは無縁な空間だなって、僕の目には映ります。
岡 :確かに艇庫では、否が応でも人の存在から逃れられないよね。
向井:より人間らしいんじゃないかなって思います。朝4時に起きるのは人間らしくないかもしれないですけど、でも漁師さんとか、そういう人もいますもんね。近くに色んな人がいて、そこで一緒に生活するのってむしろ普通というか、人間らしいんじゃないですかね。
岡 :それはそうかも。私の現役時代からもう10年くらい経つけど、SNSの発達による影響なのか、人といなくても人と繋がってるような、そういう錯覚に陥ることって増えたなと思ってて。でもそれって繋がってる気がしてるだけで、近くで声をかわすとか、面と向かって会うとか、ここ10年だけでも本当に減ったなって思う。確かに艇庫という場所自体が貴重かもしれませんね。
向井:宿泊スペースが雑魚寝や大部屋なのって、いいことなんじゃないかなって思います。もちろん鼾がうるさいとか、そういうトラブルはありますけど、人の生きる姿って、もともとそんなもんじゃないですか。なんやかんや毎年20人とか新入生が入ってきて、ちゃんとボート部は続いているわけですよね。ということはきっと現代も、みんなが心から望んでばらばらになってるわけじゃない、ということなんじゃないでしょうか。「寝る時くらい一人じゃないと無理」とか言う人は多そうですけど、そういう人の中でも、まあまあの割合で、やってみたら意外と馴染んだりとか、いきいきやってく人もいそうだなって。ボート部じゃなくても、こういう艇庫みたいなところに集まって大勢で暮らすとか、案外やっていける人は多いのではないかと。
岡 :確かに、心の奥底でそういうのを求めてる人は多いかもしれない。
向井:あとは単純に、今の子どもとか若者って、そういう生活してる大人をあんまり見てないから、シンプルに「わからない」というのもあるんじゃないかなと思います。わからないから怖いというか。今までそういう大人を見てないだけで、だからこそ人との繋がりの形をわからないだけかもしれないなと。自分もボート部入ってなかったら、たぶんわからなかったと思うし。
でもこういう生活を通して、多少考え方の違う人がいても意外と暮らしていける、ってことがわかるじゃないですか。完全に排除しなくてもやっていけるんだって、それを学ぶ経験にはなると思います。合宿というか、共同生活がキーですね。
岡 :女子部の選手5人へメッセージをお願いします。
向井:至らない部分もありましたが、ここまで付き合ってくれてありがとう。インカレでは積み上げてきたものを存分に発揮してほしいと思います。Good luck!
岡 :最後にこれを読んでいる方々へメッセージを。
向井:ここまで読んでいただきありがとうございます。もしよろしければ、下の拍手ボタンを押していってください。ほかの選手のインタビュー記事も面白いので、ぜひ! それではまた。
いかがでしたでしょうか。
艇庫管理人の話も、ボートのこだわりの話も、ひとつひとつ丁寧に、それこそ微に入り細に入り語ってくださったのがとても印象的でした。
威厳はなくてもプライドがあるからこそ、選手も向井さんの言葉にしっかり耳を傾け、ひとつでも多く吸収しようと頑張ってこれたのだと思います。
そして女子部の学生コーチは向井さんだけではなく、東商戦までの期間は、李聖美さんが人一倍親身にやってくださっていました。
年度が近いからこそ話せることもあり、一番身近な相談相手として、選手たちが本当に頼りにしていた存在だったと思います。
自分の将来を決めていくこの大切な期間に、学生コーチとしてかかわってくださったことに深く感謝しています。
向井さん、聖美さん、本当にありがとうございました。
それでは次回もお楽しみに。
女子部コーチ
岡








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