こんばんは。
女子部監督の岡です。
解体新書シリーズ、今回は3年生・磯崎水優選手の登場です。
インカレの小艇エルゴ基準タイムを切れなかったため、シングルスカルでの出漕はかないませんでしたが、東北大学さんとの女子エイトでインカレに出漕します。
これも、磯崎の人を引き寄せる力のおかげかもしれません。
今はスカルで自分の漕ぎに向き合っており、先日はOBの伊藤さんとダブルを漕いでもらっていました。
これまた羨ましい限りです。
しゃべるときにちょくちょく出てくる咳払いがチャームポイントです。
是非お楽しみください。
~2023年8月19日 東大艇庫にて~
岡 :それでは昨年に引き続き、よろしくお願いします。
磯崎:よろしくお願いします!
岡 :近況を教えてください。
磯崎:オフの日、2年生のゼミでグループが一緒だった人たちとごはんに行きました。渋谷のすごくおしゃれなごはん屋さんで、すごく話が盛り上がって、その後またおしゃれなカフェに行って。半日くらいずっとしゃべり倒してました。とても楽しかったです。
岡 :大学生っぽい。
磯崎:恋愛の話しかしないんですけどね。
岡 :いわゆる恋バナですか。
磯崎:お互いに共通の知り合いがいないし、普段の生活も違うから、逆に本音で話せたり、あけすけな話ができたり、そういうのがすごく心地良いです。留学生の子が9月に母国に帰っちゃうんですけど、これからもオンラインで飲み会しようねって話してます。ちなみにゼミの中に4グループあったんですけど、私のグループだけ書類ミスで、準決勝に進めなくて。でも他の3グループは、準決勝の準備だなんだで険悪になっちゃったみたいです。私たちは敗退したからこそ、こうして仲良くできているのかも。
岡 :おもしろかった話をかいつまんで教えて下さい。
磯崎:ええ~、ふふふ。
岡 :なんか楽しそうですね。
磯崎:たとえば、すごく好きって言ってくれるけど、全部「○○ちゃんのために」と言ってくる人の話とか。そういうのって、うまくいかなかったときに、絶対○○ちゃんのせいにするよねって。他人軸ではなく、あくまで自分軸を大切にしたいという話でした。
岡 :なるほど。
磯崎:あと、依存と自立のバランスの話。全然連絡を取らないタイプもいれば、全部心の闇をオープンにしてくるような、依存するタイプもいる。中間がちょうどいいのかな。あとは、ずっと前から見守っていた恋が進展したんだよっていう話を聞いて、感動をみんなで味わってました。
岡 :私の知らない世界ですな。磯崎はどんな話をするんですか。
磯崎:「素を見せていく」という話をしました。でも、相手に100%見せるわけじゃないし、100%さらけだすことが正しいわけじゃないし、自分も100%をさらけだされたときに受け止められる自信がない。でも人って、自分を全てさらけだして、許容してくれる人を求めるところがあると思う。だからそういうとき、「どれくらい」さらけだすものなのか?という話題を投げかけました。私、こういう哲学的な議論が大好きで。
岡 :どんな話になりましたか。
磯崎:いきなり100%をさらけだすのはきついから、ちょっとずつさらけ出すのが良いんじゃないか、でも、どんなに深く付き合ったとしても、100%に至ることはないのではないか。という話になりました。
岡 :恋愛において一番必要なものはなんだと思いますか。
磯崎:えー、なんだろう、難しい……(熟考)……相手へのリスペクト。
岡 :リスペクト。
磯崎:自分軸をブラさない、というのも必要かな。所詮他人だし、「○○ちゃんのためにすべて捧げる」みたいな、そういうのは良くないと思う。お互い自分の軸を持っていて、それと共にある感じがいいなあと思います。
岡 :他に近況のエピソードはありますか。
磯崎:中学1年生からずっと仲いい友達がいるんですけど、誘われて、一緒にジャニーズのライブに行きました。チケット代が8600円で、高いな~とは思ったんですけど、人生経験だと思って。私の推しのグループではなかったので、「私、やっぱり自分が推してるグループの人が好きなんだな」というのがわかりました。それが一つの収穫です。
岡 :これまた私の知らない世界ですな。
磯崎:ファンサービスのとき、その友達が、一番好きなアイドルとハイタッチできたんですよ。初めて触ることができたって。それで帰り道、中1からずっと付き合って来た中で、その子が本当に、今までで一番「笑顔!」という笑顔をしていて。
岡 :おお。
磯崎:「幸せ」を顔で表すとこういう顔になるんだ、という顔でした。
岡 :よかったですね。
磯崎:私が「本当に幸せそうでよかったよ」って言ったら、「でも、私にとって、これが人生で一番の幸せじゃないよ」と言われました。「だって水優ちゃんが東大に受かった時、私泣いたもん。今は泣いてないでしょ?」と。
岡 :そうなんだ。
磯崎:感動しました。その子と高校は別だったんですけど、私が東大受験するっていうのを知ってて、ずっと応援してくれてて。そんなに頻繁に会ってたわけでもないんですけどね。東大の合格発表は12時で、最初は親に連絡して、学校に連絡して、親戚に連絡して、そういうもろもろがあって、その子に連絡したのが16時くらいだったんですよ。「受かったよ、ありがとう」って送ったら、本当に3秒くらいで既読がついて、電話がかかってきて。もう最初から泣いてて。大号泣しながら「ほんとにおめでとう」って言ってくれて。
岡 :そんなに喜んでくれたんですね。
磯崎:その子は12時に発表っていうのも知ってて、ずっと待機してたけど、自分から聞くわけにもいかないから、待つしかなかったって。4時間くらいずっと待ってて、これはもしかしたらだめだったのかも……と思ってたみたいです。
岡 :それはそうだね。
磯崎:「なんでもっと早く連絡してくれないの?」って言われて。そんなに待っててくれたんだ……って思いました。親も泣いてたんですけど、その友達もめちゃくちゃ泣いてて、私でさえ泣いてなかったのに。本当にいい友達だなって実感したし、ライブでその子が幸せそうな姿を見て、私も嬉しかったです。8600円分の価値、ありました。その子とは、これからもずっと付き合っていきたいなって思います。
岡 :誰かが自分のために泣いてくれたことって、すごく残るよね。
磯崎:合格発表の日、たぶん他にも色々あったんですけど、あんまり覚えてなくて。でも、その子が大号泣してくれたことは、すごく覚えてます。
岡 :学業の方はどうですか。
磯崎:経済学部の経営学科に進みました。私は文Ⅲからなので、文Ⅱから来た人より知識がないのに、同じ試験を受けないといけなくて、2年生の後半が辛かったです。全部必修で、すごく難しくて……色んな人の助けを借りて、なんとか単位はきました。授業は大人数講義で、おもしろいのもあれば、「ふーん……」っていうのもあるんですけど。
岡 :ゼミはあるんですか。
磯崎:3年生から始まりました。ゼミにはけっこう恵まれたなと思います。第2希望のところに入れたんですけど、ほとんど運動部で、先生も元サッカー部で、価値観が合うというか。ゼミの飲み会があっても、半分くらいは「明日部活なんで帰ります」ってなるし、私も「消灯あるので帰ります」と。これから「ゼミ論」っていって、グループで論文を書くんですけど、私たちは今のところ、「なぜ下北沢にはカレー屋がいっぱいあるのか?」というテーマでいく予定です。
岡 :それはおもしろそう。
磯崎:競合店が多いのって、普通に考えたら不利なのに、なんで集まってるのかなって。まだ全然進んでないんですけど。
岡 :なぜ下北沢にカレー屋が多いのか、わかったら教えて下さい。
岡 :それでは、ボート部の話にうつっていきましょう。まず、この1年で一番嬉しかったことはなんですか。
磯崎:京大戦で勝ったのは、嬉しかったです。
岡 :去年も京大戦って言ってたね。
磯崎:そうですね、去年もすごく嬉しかったです。去年のインカレももちろん思い出に残ってるんですけど、曇りだったり風が強かったりして……でも、京大戦っていつも晴れてて、「晴れとメダルと自分」みたいな。青空のイメージ。写真を見ても、すごく楽しそうに笑ってるし、楽しかったなーって思います。
岡 :それでは、2番目に嬉しかったことは。
磯崎:えっ、2番目ですか。それは難しい……最近だと、花火大会楽しかったです。
岡 :青木に写真見せてもらったんですけど、浴衣似合ってましたね。
磯崎:花火以外だと、そうですね……冬にケガしてたんですけど、だんだん以前と同じエルゴメニューができるようになって、ベストを更新したとき。これがけっこう嬉しかったです。低レートのロング漕なんですけど、ケガ前のベストを2回連続で更新して。ケガしてたとき、ランとかバイクとか、有酸素を積んでたんですけど、ちゃんと意味があったんだなって。「強くなってる」感があって嬉しかったです。
岡 :たしかに、磯崎は地道に積んでましたね。
磯崎:ベスト更新した日、トレ部屋でやってたんですけど。エルゴが終わって一人でストレッチしてたら、いつのまにか耕大がいて。「最近どうなの?ケガ明けたけど」って聞かれて、「ベスト更新したぜ!いい調子!」と答える、という。そのシーンが焼き付いてます。
岡 :耕大、意外といいやつだよね。梶谷のインタビューにもなぜか答えてくれたし。
磯崎:どう考えても知歩ちゃんへの質問だったはずなのに、よく答えようと思いましたね、耕大。
岡 :この1年で一番しんどかったことはなんですか。
磯崎:エルゴ強化期間ですね。最近だから、より記憶に残ってるのもあるかもしれないけど……インカレの小艇基準タイムを切るために、エルゴに特化したメニューをやってました。とにかくプレッシャーがすごくて、他のこと全然手につかなくて。体力的にきついというよりは、ずっとプレッシャーがつきまとってて、何をしててもエルゴのこと考えちゃって、それが大変でした。
岡 :そこをどう乗り越えましたか。
磯崎:結局タイムは切れなかったんですけどね。でも、江口さんとか、コーチの方とか、赤木さんに話を聞いてもらって、自分なりに頑張ろうって、気持ちを奮い立たせました。この期間はどんなに辛くても、心折れずに頑張ろうって。どう対処したかというと、具体的には思い浮かばないんですけど、なんとかなんとか、色んな人と話すことで乗り越えました。
岡 :印象に残った話はありますか。
磯崎:同期に言われたことと、赤木さんに言われたことがほとんど同じだったので、それが印象的でした。
岡 :何を言われたんですか。
磯崎:ありのままの自分を受け止める、そのままの現状を受け止める、そういう姿勢があった方がいい、と言われました。2人に同じことを言われるってことは、本当にそうなんだろうなって。
岡 :「現状を受け止める」というのはどういうことでしょう。
磯崎:赤木さんに言われたのは、「解釈と事実は違う」ということです。エルゴで出た値はただの事実で、それについてどう思うか?というのが解釈。「良いか悪いか」というのも解釈ですよね。磯崎はそれがごっちゃになってることがあるから、まず事実は事実として受け止めること。「悔しい」とか、そういうのはもちろんあるけど、それとは別に、「今ある事実に対して、どうしていくか?」という方向で考えたら?と言われました。たしかに自分、感情入りがちだなって……とても印象に残ってます。
岡 :この1年で自分が一番変わったなって思うことはなんですか。
磯崎:昨日、たまたまそれ考えてました。自分、何か変わったかな……と。
岡 :おお。
磯崎:でも、この1年であんまり変わってない気がして、悲しくなってました。
岡 :そうかな。
磯崎:でも、2年生のときは、自分の感情がけっこう揺れ動いていて。落ち込むことも多くて、周りからもよく「落ち込んでるよね」って言われたんですけど。それはちょっと減ったと思います。「もう部活やだ!」ってなることは、今はあんまりないです。
岡 :なるほど。
磯崎:元気そうになったねって、言われるようになりました。2年生のとき気分の上下が激しかったのは自分も周りも感じてたから、もうちょっと機嫌よくいたいなって、心ではずっと思ってました。
岡 :今の自分の課題だと感じることはなんですか。
磯崎:けっこういっぱいあるんですけど……競技面ではなく「人として」というところだと、たとえば同期とか、普段よくしゃべる人と、あらたまった話をするのが得意じゃなくて。岡さんとか、コーチの人とはわりとできるんですけど。やっぱりもう最高代になるし、ちゃんと話したいという気持ちはある。ありつつも、照れてしまうというか。もともと人に干渉するのも好きじゃなくて、「別に言わなくてもいいや」って思っちゃう。
岡 :去年は、思ったことをずばずば言うようにしてたんだよね。
磯崎:ボートに関することはそうですね。クルーmtgとか、そういうときは今もわりと言います。ボートが速くなるために必要なことだから。でも、生活に関することは、艇速に直接関わるわけじゃないし、私がちょっとやだなって思うだけで、全体に響くことじゃないから。あと、人の考え方に対してもそう。「その考え方はちがうと思う」って言える人もいると思うんですけど、私はそういうタイプじゃない。でも、そういうのも、もうちょっと言ってもいいのかな、と思ってます。
岡 :あらたまった話って、結局はお互いの考え方の話になると思う。言わないといけない局面は、これからたくさんあるだろうね。
磯崎:そういうときに、強く言えないんですよね。「おまえはこう思ってるけど、俺はこう思う」みたいな、そこまでの強さがない。今まで、あんまりしてきたことがなくて。周りもそうだったというか、友達も私と似たような感じで、「あなたはあなたで好きにやってればいいんじゃない?私は私で好きにやるから」というタイプが多かったです。
岡 :「干渉しないタイプ」っていうのは前も言ってたね。
磯崎:そのスタンスが良く作用することもあるし、そんな自分も悪くないって思うけど、人を巻き込んでいくのが必要なこともある。やっぱりここは組織だから。巻き込んでいくタイプの人を見ると、単純に、すごいなって思います。
岡 :他人に興味はありますか。
磯崎:人間観察は好きです。でも、そうですね……おもしろいとは思うけど、記憶としてあんまり残らないかも。「○○ってこうだよね~」と友達に言われても、「あ、そうだっけ?」みたいな。人のこと、見てはいるけど、あまり自分の内部に入れようとしてないのかも。「この人おもしろいな」とは思うけど、その人のこと自体は、わりとどうでもいいのかな。
岡 :今年のスローガン「人を、自分を変える」を、磯崎は自分の中にどのように落とし込んでますか。
磯崎:んー……(熟考)……人を変えるのってエネルギー要るな、と思ってて。たとえば自分が変わって、それを見た人が「変わろう」と思う、みたいなのは、わりとイメージできるんですけど。自分から人に働きかけてどうこう、というのは、あんまりできてない。
岡 :それは、できるようになりたいですか。それとも、やらなくていいと思う?
磯崎:できるようにはなりたい、とは思ってます。ただ、自分が働きかけて、それで変わるかどうかは相手次第だと思ってるところがあって。あと、言ってる側の人間が、「この人の言うことなら聞こう」って思われる人じゃないと効果がないというか。まず、そう思われる人になろう、というのが今年は大きかったです。
岡 :どういう人だったら、「話を聞こう」と思ってもらえるんだろう。
磯崎:考えて行動してる人、とか。あとは、自分のことを見てくれてるなって思えてる人。たとえば乗艇中「こうしたらいいよ」とコメントもらうときに、全然関わったことのないOBの方に言われるより、普段見て下さってる向井さんとか岡さんに言われる方が、すんなり入ってくる気がします。やっぱり、自分のことを気にかけてくれる人だから。
岡 :でも磯崎は、わりと人のこと見てるんじゃないの?
磯崎:いや、そんなことなくて。周りを見るのは苦手です。最近意識するようにはしてるんだけど、意識しないと見れない。ボート部の中には、そういうのが自然と身についていて、心の底から「見たい」と思って人を見ているんだなって、そう思える人が何人かいて。もしかしたらその人も、努力して身につけたものかもしれないけど、心の底から人に関心があるというか。そういう人はちょっと羨ましいです。
岡 :そういえば飯島と、その話をしたことがあります。もともと人に関心があるタイプと、そうじゃないタイプがいるよねという話。私はたぶん、もともと人に興味があるんだと思う。別に見ようとしなくても、自然と気になる。ちょっとした表情の変化とか。
磯崎:そうなんですよね、そういう人もいるんだろうなって。
岡 :単に性格なのか、それとも、これまでの人生で培われたものなのかな。おもしろいですね。
岡 :今のチームの課題だと感じることはなんですか。
磯崎:女子部に関しては、もうちょっと言い合える関係でもいいのかなと。性差もあるかもしれないんですけどね。
岡 :男子部も含めたチーム全体としてはどうでしょう。
磯崎:もっとお互いに関心を持ちたいな、と思います。たとえば私は、スタッフが何やってるのか、あんまり知らない。全部知るのは難しいかもだけど、一緒に活動してる以上、もうちょっと知っててもいいのかなって。たとえば今、(中村)りんちゃんがどんなこと頑張ってるか、私は知らないなって思って。
岡 :私この前、りんちゃんに小言をいっぱい言ってしまいました。
磯崎:選手の中でも、誰がケガしそうとか、この人疲労たまってるよな、とか。クルー内ではわかってると思うけど、もうちょっと全体でわかっていたい。「大丈夫?」と声を掛け合うことで防げるケガもあると思う。
岡 :「言い合うこと」「お互いに興味を持つこと」、両方とも磯崎自身の課題と同じだね。思ってることを言い合うためには、どうすればいいんでしょうか。
磯崎:言い合える方が本当の絆っぽいな、とは思うんですけど、私のことを言うと、何か言うのも好きじゃないし、言われるのも好きじゃない。というか、あんまりそういう経験がない。そうなりたい、とは思いつつ、そんなに簡単に変わるものじゃないよな、とも思う。言った方がいいことは躊躇わずに言える、そういうイメージですね。そのためには、別に真剣な話じゃなくても、もうちょっとお互いに話した方がいいのかな。
岡 :具体的にどういう場面で、もっと言い合った方がいいと感じる?
磯崎:女子部に限らずなんですけど、「前まえから思ってたんですけど」と言われたりすると、「え、前から思ってたなら言ってよ」って思います。
岡 :なるほど。
磯崎:それって、言おうかずっと迷っていて、結局そのタイミングで言ってくれた、という場合ですよね。でも、やっぱり思ったときに言ってほしい。たとえば代mtgとか、そういう場ではじめて「こう思ってたんだよね」って言われたりすると、「あ、これまで言わなかっただけで、ずっとそう思ってたのか……」と思ってしまう。わざわざ議論の場じゃなくても、そのときに言えばいいじゃんって思うし、今言われてもどうしようもないこともある。そうなると、その思いがすごくもったいないなと。
岡 :磯崎は、他人から何か言われるのは好きじゃないけど、今の話だと「言ってほしい」ということなの? どっちなのかよくわからない。
磯崎:言われた瞬間は「うっ」と思うんですけど、後々言われるよりはその時の方がいい。言われるのは得意じゃないけど、「そうだな」って思えることだったら受け入れるし、ありがたかったなって、後から思えることもあるので。
岡 :来年度、どういう選手になりたいですか。
磯崎:最後の一年だから、ボートにも向き合いたいし、自分にも向き合いたい。中途半端に終わるのは、やっぱりいやですね。
岡 :「ボートに向き合う」というのは、具体的にどういうことですか。
磯崎:「目を背けない」というイメージです。最高代になって、あんまり考えたくない課題とかも出てくると思う。そういうのってだいたい、その課題の裏に、大元の問題があることが多いんですよね。そっちを直さないと結局変わらない。表面的な方だけ考るのが楽だし速いんですけど、より考えるのが大変そうな方に立ち向かっていくというか。もしかたら全然解決できないかもしれないけど、それでも立ち向かおうと決めて行動する、そこに責任を持つ、ということです。自分の漕ぎについても。
岡 :根本から目を背けちゃったこと、これまでにありますか。
磯崎:うーん、ぱっと出てこないですね。勉強だったら、根本の定理を理解してないまま問題に立ち向かった結果できないみたいな、そういう感じなんですけど……でも、2年生の時から、ちょくちょく思ってたことではあります。
岡 :漕ぎの話をすると、磯崎は、見た目的に変な漕ぎはしないけど、体重があまり乗ってない漕ぎだと思う。単純にドライブが弱い。ブレードワークもたしかに大事だけど、「ドライブの強さ」という根本に立ち向かってほしいなと思います。
磯崎:それ、冬場に東さんにも言われました。
岡 :レートを上げるのも大事だけど、根本は一本の強さだと思う。「レートを上げるため」に漕ぎをごまかすんじゃなくて、低レートからしっかり積み上げて、その上でレート高く漕げるようになってほしい。
磯崎:たしかに、そんな感じかもしれません。
岡 :「自分に向き合う」というのは、具体的にどういうことですか。
磯崎:えー、難しい……
岡 :私も、自分が聞かれたらどう答えるかなって考えてるけど、難しいね。
磯崎:そうですね……(熟考)……「自分のこういうところ直したいな」と思いつつ、「でも無理か、だってこういう性格だし」って言い訳したり、何もアプローチしないまま「ああ、この性格やだな」と留まってしまったり。でも、そこを越えていきたいですよね。
岡 :なるほど。
磯崎:「こういう性格」というのは、変えられない事実としてあると思う。でも、100%は無理でも、50%は変えられるかもしれない。そう思って行動するように心がけてます。変えたいという思いがあるなら、自分で限界を作らずにやってみる、無理だと思わずにやってみる。それでもだめだったら諦めればいいし、「できることはやった」と思えるんじゃないかな。
岡 :結果はどうであれ、行動したことは自信につながるよね。
磯崎:あと、弱みをなくすのも大事だけど、強みを伸ばしていくのもいいのかなって。あんまり自分の強みが思い浮かばないんですけど、だから「わからない」で止まるんじゃなくて、周りの人に聞いてみるとか、あまり悲観的にならずに考えてみるとか、そういうのも必要ですよね。この前、岡さんにも聞きましたよね。
岡 :そうですね。私なりにお答えしました。
磯崎:全部が完璧である必要はない。弱点が何個かあった方が人間っぽいし、「でもこういうところは強いよ」というのが魅力になるのかなって。友達を見ていても、たしかにこういうところはあるけど、それを上回る魅力があるから一緒にいるんだよなって。自分と、この先一緒にいるのは自分だけだから、自分に向き合うことで、人として一歩高まるんじゃないかなと思います。
岡 :自分の直したいところはなんですか。
磯崎:ちょっと大変そうなことがあると、「あとでいいや」って思っちゃうところ。先のことを考えすぎて、今に集中できないところ。あと、さっきの話の通り、人に関心を持てないところ。
岡 :関心を持ちたいなら持てばいいじゃないですか。
磯崎:本当にここに関しては、最高代になるのに「私は人を気に掛けられない」で終わらせるべきじゃないなって。たとえば今は、食堂でごはん食べるときに、どうしても06の方に行ってしまうんですよ。同期である06の方が話しやすいし、楽しいかどうかだけを考えたらそっちの方が楽しいから。本当は06だけじゃなくて、後輩とも話した方がいいと思うんですけど。普段の生活でも、そういうふうに「今楽しい方」に流されがちですね。
岡 :それでは、磯崎の強みはどこですか。私が前言ったのは、たとえば私が艇庫に来ると、磯崎は自分から必ず声をかけに来てくれる、というところでしたね。
磯崎:それはもう、自分の強みにしていこうと思います。あとは……強みとは違うかもしれないけど、激励会のとき、粉川さんに言われたことがあって。「今エルゴが伸び悩んでたとしても、それって悪いことだけじゃない。今後同じ状況の人に相談されたとき、本当に親身になって答えられると思う。同じように悩んでた人がいるんだ、って思えるだけで心強いものだよ」と言われて、なるほどな~と思いました。その視点は今までなかったので。エルゴ強化期間も、この言葉はすごく支えになりました。
岡 :たしかに、それはそうですね。本当の意味で親身になれるかどうかって、自分が身をもって経験してきたかどうかで決まると思う。
磯崎:あとはなんだろう……ゼミの人たちに相談したときに、「でも、そういうのを相談できる相手がいっぱいいるのっていいよね」って言われました。それはそうだなって。コーチの方にもこういうふうに相談するし、04の先輩方にもけっこう話すし、高校の担任の先生もいるし。「相談できない」という状況が、私にはあんまりないんですよ。しかも相談したときに、みんなすごく親身になってくれて。
岡 :おお。
磯崎:退部した小西や船越ともまだ連絡とってて。
岡 :すごく懐かしい名前だ。
磯崎:2000TTの前に「応援してよ」って言ったら、わりと真剣に考えて返してくれたり。「落ち込んでる」ってツイートしたら、船越が「磯崎のいいところ」ということで、10文字×4行みたいなメッセージを送ってくれたりして。ありがたいですよね。りんちゃんも、エルゴ強化期間のときに応援しに来てくれたり。りんちゃんがエルゴ見に来たことなんて、ほとんどなかったのに。
岡 :りんちゃんまで。
磯崎:「そうやってみんな相談に乗ってくれるってことは、相談に乗ってあげようと思える人だからだよ」と言われたことがあるんですけど、それは嬉しかったですね。これを「強み」って言っていいのかはわかんないけど。
岡 :立派な強みですよ。
磯崎:私はそういう人たちをいっぱい持ってるし、そういう状況を自分が作り出してきた、というとちょっと言い過ぎかもしれないけど。東大合格した時に、友達が泣いてくれたのもそうですよね。応援したいって思ってくれたから、そんなに喜んでくれたんだと思う。人間関係に恵まれてる、ということなのかな。
岡 :素晴らしいことです。
磯崎:そういえば、この前、飯島さんと「親友って何人いる?」っていう話をしたんですよ。私の「親友」の定義が甘いのかもしれないけど、この先ずっと仲良くしていきたい人は……って数えたときに、中学の友達、高校の友達、大学で仲良くなった人、小西や船越……というふうに考えていくと、15人くらいいて。この15人は、大人になっても絶対ごはん行きたいし、この先も仲いいんだろうなって、本当に確信してる15人なんですよ。そういう人がこれだけいるのって、すごく嬉しいことだなって。他の人に聞くと、もっと少ないんですよね。
岡 :15人は多いね。
磯崎:多ければいいってもんじゃないけど、でも嬉しいなって思います。
岡 :磯崎は、人の好意を素直に受け取れるからじゃないかな。そこが本当に強みなんだと思う。
磯崎:私、いやみを言えないんですよ。
岡 :いやみ?
磯崎:最近06で話題になったんですけど、いやみって、けっこう頭使わないと言えないじゃないですか。単なる悪口と違って、ちょっと忍ばせた言い方というか、わりと高度な話術だなと思って。私はそういう頭を使ったことがないなって。でも「いやみ言ったことない」ってけっこうすごいんじゃないかなって思いました。
岡 :いやみを言う人が習慣になってる人もいるけどね。
磯崎:賢さがないだけかもしれないけど。
岡 :どんどん増えてきましたね、磯崎の強み。他の人にも是非聞いてみてください。
岡 :磯崎にとってのボート部とは。
磯崎:えー、なんだろう……こういうときにかっこいいこと、思いつかないんですよ。
岡 :『プロフェッショナル~仕事の流儀~』じゃないんで、かっこよくなくていいですよ。
磯崎:私の価値観を変えてくれた場所、というか。こういう人たちがいるんだ、というのが、私の中に追加された感じです。これまでの友達って、私と似たようなタイプが多くて。だいたい文化部で、共学だけど女子だけで固まってるグループでした。今からは全然考えられないんですけど、私が所属してたのは「ちょっとお嬢様グループ」で、男子ともあんまり話しませんでした。「紅茶飲んでそう」って言われる感じ。
岡 :お茶会……
磯崎:コーラス部も女子だけだったし、いわゆる女子社会でした。私もそうだけど、あんまりずばっと言わず、常にほんわかしてる感じ。あれ、自分ほんわかしてるのかな、一応自分ではそう思ってるんですけど。
岡 :ほんわか磯崎。
磯崎:でもここは、ほんわかした人なんてほとんどいなくて、がつがつしてるじゃないですか。そういう人たちと今後もつきあっていくかは微妙だけど、世の中にはこういう人たちもいるんだなって、知れました。あとは、運動部って漫画のイメージしかなかったけど、実際自分がその中に入ってるのも、おもしろいなって。高校までだったら思ってもみなかった世界に自分がいる。そういう経験をさせてくれた部活です。
岡 :なるほど。
磯崎:あとは現代で、ここまで真剣に取り組める人が集まってるのも、すごいなって思います。この先あんまり出会えないだろうなって……だから、私の生きていく人生、こう(ジェスチャー付き)いくはずだった道を、こう(ジェスチャー付き)したというか。違う道にいったわけじゃないけど、見ることのできなかった世界を見ている感じです。自分が広がりました。
岡 :人生の寄り道でしょうか。
磯崎:もうちょっと細かい話だと、04の先輩方とか、岡さんとかいつほさんとか、大石さんとか聖美さんとか、もう本当に尊敬する人たちで。コーラス部の先輩も尊敬してるけど、人数が多かったし、一人ひとりとそんなに仲いい感じじゃなかった。「いわゆる先輩」というのも初めてだったし、「いわゆる後輩」として可愛がってもらうのが、楽しかったです。
岡 :去年とか可愛がられ放題だったね。
磯崎:この先もずっと「先輩」と呼べるような人がいるのって、いいなと思います。OGとのつながりもあるし。30歳になっても、女子部の先輩とは繋がってたい、話をしていたいと思います。そういう人たちに出会えたこと、自分の「仲いい人たちリスト」に、いっぱい人が加わりました。
岡 :それは、私にとってもそうですね。
磯崎:あとはやっぱり、青春って感じがします。60歳で人生を振り返った時に、たぶん漕艇部の4年間って、めちゃ特殊というか、浮き上がってる感じなんじゃないかな。
岡 :私にとっては、一番甘やかされたときだったと思う。こんなに甘やかされたことなかったし、人の優しさが身に染みてしょうがなかった。
磯崎:それは、コーチや先輩に見てもらってる感じってことですか。
岡 :そうだね。自分が何もしなくても何かしてくれる、ということがいっぱいありました。こんなことって本当にあるんだって、とてもびっくりした。人生の中で、本当に大きな意味があったと思います。その分欲が出てきてしまったけどね。もちろん良い意味で。
岡 :他に、言い残したことはありますか。
磯崎:いや、でもわりとしゃべりました。インタビューすごく楽しみで、今日はうきうきで来ました。
岡 :ありがとうございます。私に質問などありますか。
磯崎:あっ、恋バナってOKですか。
岡 :え~、内容によるけど。
磯崎:恋バナというか、恋愛に関することを深く追究する議論が好きなので。
岡 :とりあえず言ってみてください。
磯崎:じゃあ、素を見せるということについて。恋人に限らずでいいんですけど、岡さんは、自分がどれくらい素を見せるタイプですか。
岡 :基本的には、あんまり嘘をつかないようにしてます。ただ、嘘をつかない=素を見せてる、ということでもないのかな、難しいね。ただ、本当に話を聞いてほしい人、本当に理解してもらいたい人って、けっこう限られると思う。「自分のことをわかってもらいたい人」がいるというだけで、本当に幸せだと思ってます。
磯崎:では逆に、相手が素を見せてきたらどうですか。素というのは、普段は人に見せないような、闇というか、暗い部分。
岡 :あっ、闇って好きですよ。
磯崎:たとえば私だったら、めっちゃネガティブみたいなところ。そういうの見せられたら、嬉しいと思いますか。
岡 :それはすごく嬉しいです。人間っぽいなって思うから。そういうのって、誰にでも見せるようなものじゃないと思うけど、「こいつになら見せても大丈夫かも」とか、「こいつにはわかってもらいたい」って思ってくれたのかな、って思うと嬉しいよね。もっと言うと、その思いが双方一致してたらいいですね。自分もこの人にわかってもらいたいし、相手もそう思ってくれてるような、そういう人と一緒にいられたらいいなと思います。
磯崎:そうなんですね。私は、自分はわりと素を見せたいけど、相手に見せられると、「ん~」って思っちゃいがち。
岡 :そうなんだ。
磯崎:あと、「自分の軸を持ち続ける」って、けっこう難しいなって感じていて。周りを見ていても、軸を持ってるように見えても、何かのきっかけで意外と崩れちゃうこともある。岡さんは、自分の軸を持ってますか。
岡 :最近、職場の人と、ちょうどそんな話をしてました。「自分の生き方のベースになってるものは何?」というテーマで。
磯崎:そういう話、めっちゃ好きです。
岡 :私は、人間はあんまり好きじゃないけど、名前のついた一人ひとりは、意外と好きなんですよ。だから、いつでもベストを尽くすというか、目の前の人とちゃんと向き合ってたいなって思う。そう思うのは、やっぱり自分がそうしてもらった経験があるからです。それが軸なのかな。どうなんでしょう。
磯崎:今のを聞いて思ったんですけど、私の「人に関心がない」というのは、いったい何なんだろうって。人と話すのはすごく好きだし、将来も、人と直接関わる仕事がしたいなって思ってて。父はマッサージの仕事をしてるんですけど、患者さんとマッサージしながらけっこうしゃべってて、そういうふうに、直接会話をしていたい。じゃあなんで人に関心がないのか?というと、その人ひとりひとりに人生があって、そこに自分が作用するのが好きじゃないのかも。
岡 :なるほど。
磯崎:お互いの考えを話し合うとか、相手の考えを知るとかは、好きだし興味がある。でも、人に注意するとか、人に干渉するって、その人の領域に踏み込んでいくことじゃないですか。それがたぶん好きじゃないし、苦手なんだろうな。その人の世界はその人の世界として、受容していたいのかも。
岡 :それだと、私はわりと踏み込みたい方、干渉したい方だと思います。でも、実際にできてるかっていうと微妙なのかな。職場でも、その子にとって「必要なやりとり」みたいなのはできるんだけど、私の個人的な思い、「こうあってほしい」という気持ち、つまり期待するということなんだけど、それは苦手なんだと思う。でも、「そこをもっと伝えてもいいのに、って思うよ」と、この前職場の人に言われました。でも、そう言われて嬉しかったです。私も、もっと人に干渉できるようになりたいと思ってるので、一緒に頑張りましょう。
磯崎:岡さんがコーチとしてこうやって関わってくれているのは、その「干渉したい」という思いがあるんだろうなって思います。私も、やっぱり、こうして関わってくれると嬉しいです。でも、もうちょっと考えたいというか、不思議だなって思いました。人は好きなのに、どうして私は人に干渉しないんだろう。
岡 :次回までに考えておいてください。
岡 :それでは、これを読んでいる人にメッセージをお願いします。
磯崎:けっこう話すの好きなんで、みんなともっとしゃべりたいです。あと、みんなの話も聞きたいなって思います。あとは……ボート部の内部の人だったら、本当に一人ひとりに対して、エピソード付きで「この人好きだな」「ありがたいな」と思うことがあるので、ありがとう、って思います。外部の人だったら、関心を持って読んでくれていると思うので、関心を持ってくださってありがとうございます。というのを伝えたいです。
岡 :ありがとうございました。また恋バナしましょう。
いかがでしたでしょうか。
実は私も最近一緒にダブルに乗ってもらったのですが、「めっちゃ舟進みますね!」とにこにこコメントしてくれました。
思い返せば私自身は、そういうふうに、すごいと思ったこと、嬉しかったこと、感動したこと、本当はいっぱいあったけど、ただ思っているだけで、ほとんど言葉にしてきませんでした。
なので、こういうところが磯崎の良さだな、とあらためて思いました。
残された1年で、磯崎がどう自分に向き合っていくか、とても楽しみです。
インカレでは、女子エイトのスピードに挑む磯崎の力漕にご期待ください。
それでは次回もお楽しみに。
女子部監督
岡
















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