こんばんは。
女子部コーチの岡です。
解体新書シリーズ、いよいよ今回より、このインカレで引退となる4年生のターンに入ります。
字面ではなかなかわかりにくいと思いますが、4年生の言葉にはやはり一つ一つ万感がこもっており、やり遂げてきた、という実感のこもった重さが嬉しかったです。
今回は、「こゝろ」不動の#Bを担う森田葵選手です。
笑うときゅっと細まる目がチャームポイントです。
是非お楽しみください。
~2022年8月15日・山中寮にて~
岡 :よろしくお願いします。
森田:よろしくお願いします。
岡 :まず、お名前と生年月日を教えて下さい。
森田:森田葵です。1999年の5月15日生まれです。今は……23歳です。最近、自分が何歳なのか、だんだんわからなくなってきてしまいました。
岡 :お名前の由来を教えて下さい。
森田:諸説あるんですけど、5月15日に、京都で葵祭りっていうのがあって、そこからおじいちゃんが考えてくれたみたいです。他にも色々候補はあったけど、ちょうどその日が誕生日ということで葵になりました。もともと、くさかんむりの真ん中が離れた方の「葵」という漢字を使ったみたいです。戸籍でどちらの漢字が使われているかはわからないですけど。ちなみに「葵」は、私の世代の「人気の名前ランキング」で上位を占めていた名前でした。
岡 :好きな食べ物と嫌いな食べ物を教えて下さい。
森田:好きな食べ物は、唐揚げ、オムライス、ラーメンです。
岡 :可愛らしいラインナップですね。
森田:昔はもっと渋いのが好きだったんですけど、最近はこういう定番のごはんが美味しいなって思うようになりました。艇庫のごはんは油淋鶏が好きです。嫌いな食べ物は、セロリと、マヨネーズ味っぽいビーンズサラダです。
岡 :ビーンズサラダ……?
森田:小豆とかは全然大丈夫なんですけど……ビーンズサラダは、初めて身体が受け付けないと思った食べ物です。味と、もそもそした食感がダメで。初めて小学校の給食で食べたんですけど、「これは飲み込めない」ってなって、もどしそうになったくらいで。艇庫でも何回か出るので、そのたびにチャレンジしてるんですけど、口に含んだ瞬間「あっこれ無理なやつだ……」ってなります。嫌いなものでも、頑張ったらだいたいは飲み込めるんですけど、ビーンズサラダだけは無理です。レバーとかは頑張れば食べられるんですけどね。
岡 :ちなみに、小さい頃好きだったという渋い食べ物は。
森田:昔は、アサリの酒蒸しが好きでした。
岡 :アサリの酒蒸し……
森田:すっごく好きでした。家でもよく作ってもらってて。小学校のときは、家族で定期的に外食に行ってたんですけど、家族3人とも好きなお寿司屋さんがあって、そこでアサリの酒蒸しにはまりました。お寿司食べずにずっとアサリを食べていて……ちなみに、ひたすら食べまくったもので言うと、甘えびを小さい時に一生分食べて、しばらく嫌いな時期がありました。最近は食べるようになりましたけどね。
岡 :趣味はなんですか。
森田:最近は漫画を読むんですけど、実はこれという趣味が昔からなくて……最初にハマったのは嵐ですね。それからも、友達に色々すすめられて、一時期お笑いが好きになったり、アニメ見るようになったりとか、そういう感じでした。あと、小学校のときにバイオリン習ってたので、たまに家で気分転換に弾いたりしてました。大学受験のタイミングで忙しくなって、どれも一回熱が冷めてしまったんですけどね。最近は友達におすすめされた漫画を読んでます。
岡 :最近読んだ漫画は?
森田:「ブルー・ピリオド」っていう漫画です。芸大卒の人が描いた、芸大受験の漫画なんですけど、それを芸大の友達におすすめしてもらいました。今は学科の友達にも布教して、続々とみんなはまってます。
岡 :今の学科を選んだ理由を教えて下さい。
森田:もともと建築志望だったんですけど、1,2年のときに部活ばかりやっていたので、進振りの点数が足りなくて。第二段階でどうしようかなって思ったときに、建築と内容が近いところだと、都市工学か社会基盤あたりかなと。今私のいる研究室は、社会基盤の「景観研究室」というところなんですけど、そこでやってることが面白そうだったので。あと浪人してたときに、景観研の先生に一度お会いしたことがあって。そのときのお話が面白かったので、その先生のところに行こうかなって思ったのもあります。
岡 :景観研究室の魅力を語ってください。
森田:居心地がとても良いですね。あと、社会基盤の中で、ほぼ唯一英語を全くしゃべらない、異色のところです。先生がおっとりしてて、それもあるのか、先輩方もおっとりしてて。あと他の研究室と違うのが、卒論や修論のテーマを、全部自分で決められるところですね。わりと他のところは、先輩の研究テーマを引き継いで、「これをやってください」って言われることも多いみたいなんですけど。
あとは、先輩とチーム組んだりして、学生だけで色んなコンペに出られるので、ちゃんとアウトプットする場があるところですね。インプットはあんまり手伝ってくれないんですけど、アウトプットする場があるのは大事だなと思ってます。
最近、景観研出身のOBの人とかと話したりすることが多いんですけど、縦のつながりが強い、仲がいい研究室だなって思います。他の研究室の話を聞いてると、そもそもあんまり人が来ないところもあるみたいで。うちは毎日たくさん人が来るので、基本的にわちゃわちゃしてますね。
岡 :卒論のテーマは。
森田:実は私、まだテーマも決まってなくて……自由に決められるのって、ある意味難しいことだなって思ってて。どの先生も、「卒論の段階でテーマを選ぶこと自体、めちゃめちゃ難しいことだよ」って言ってくれて。完璧なものを出そうとしなくて良い、書ければそれで十分っていうスタンスで。最初は、「自分の好きなテーマでできるのか~」って喜んでたんですけど、実はそれってすごく難しい課題ですよね。誰かからテーマを与えられたら、それをやればいいだけなので圧倒的に楽なんですけど。(追記:おかげさまで卒論のテーマは決まりました。がんばります。)
岡 :ボート部の活動とも通じるかもしれませんね。提示されたメニューを言われたままにやるのか、自分たちのコンディションに合わせてメニューを組んでいくのか。前者の方が体力的にはきついだろうけど、考える深さという点だと、後者の方が難しいよね。
森田:自分で決めないといけない分、「自分って何をしたいんだろう?」「何に問題意識を持ってるんだろう?」って、色々考えざるをえなくて。
岡 :ちなみに森田の問題意識は?
森田:実は、それを聞かれるとすごく困って。「これが良くないと思う」みたいなのが全く出てこないんですよね。それに、そういう自分の深いところにあるものって、考えたところで出てくるものでもないし……。ふとした時に「あれ?」って気づいたり、色んなもの見て触れていく中から見つけていくものだから。ちなみに、一日座って、めちゃくちゃ真面目に考えたことがあるんですけど、何も進捗がありませんでした。
岡 :闇のような一日ですね。
森田:不毛な一日でした。
岡 :大学院で何をやりたいですか。
森田:そもそも東大のシステムとして、専門的な内容を学ぶ時期が遅いから、4年間だけじゃ足りないなっていうのは最初から思ってて。大学院に行ったら、授業も一応ありますけど、何かを教えてもらうとかじゃなく、勉強するのはあくまで自分自身だなって思います。
今考えているのは、とりあえずヨーロッパに留学してみたいです。先生やOBの方には、ヨーロッパはどこに行っても良いものがあって、行ったら価値観が変わるよって言われました。特にフランスは、土木分野では、ヨーロッパの中でもかなり進んでるみたいですね。とりあえず、海外の土木インフラを色々見に行きたいと思ってます。あとはコンペとか、アウトプットする練習をいっぱいしたいなって思います。
岡 :どうして東大に入ろうと思ったんですか。
森田:専門が決まってなかったからですね。ほんとに、うん、それくらいで……。願書出す時に、希望学科とか書かないといけないじゃないですか。それが本当に書けなくて。一応色々調べてはみたんですけど、どれも「うーん」って感じで。やりたいことが決まってなかったので、「もうちょっと時間をください」って意味で東大にしました。あの頃は進振りがそこまでシビアな世界とは知らず、どこでも行けるって思ってて……そこはちょっと思い違いだったんですけどね。
岡 :小さい頃はどんな子どもでしたか。
森田:大人の顔色を窺うのがすごく得意な子どもでした。母方の方は従姉妹がたくさんいるんですけど、父方の方は子どもが私だけで。家でも一人っ子だし、基本的に周りが大人ばっかりという環境でした。小学校から私立に通ってたので、近所の子とも遊ばなくなっちゃって。カツオみたいに、帰ってきたら速攻ランドセル置いて「いってきます!」みたいなのもなくて、ずっと家にいる感じでした。電車通学なので、みんなで放課後遊ぶこともなかったですね。母方の実家にしても、夏休みとか冬休みの帰省だけだったので、同い年の子とわいわいするのって、本当に学校くらいでした。それで一度、父親に「子どもらしくなさすぎる」って怒られたことがあって……
岡 :それで怒られたんですか?
森田:もうちょっと子どもっぽくあれというか、愛想よくあれというか……たとえば、誰かから「これあげるね」って何かもらったりしても、「いやいや大丈夫です!」みたいなところがあって。それがひどすぎたみたいですね。小学校低学年くらいまでずっと。
岡 :お父さんに言われて、自分なりに変えてみたりしたんですか?
森田:うーん、どうだろう……覚えてるってことはけっこうショックだったのかなって思うんですけど。
岡 :それは相当ショックだったんじゃないかな。
森田:今はだいぶ大人になって、遠慮しすぎるのも良くないということを学んだので、小さい時より愛想はあるんじゃないかなと思います。
岡 :大人だけの世界だと、わがまま放題になるパターンもあるけど、森田はそうはならなかったんだね。
森田:これも親に聞いた話なんですけど、ちっちゃい子って「あれ買って~これ買って~」みたいなのがあるじゃないですか。でも私、そういうのも全くなかったらしくて。どこか連れて行ってもらって、「何か欲しいのないの?」って聞かれても「いや、ない」と……。「そこはなんか言っておけばいいのに」って今なら思うんですけどね。
あとは、母方の従姉妹が、兄弟姉妹が複数人いる家だったんですけど、みんなわがままがすごくて。それで怒られてるのとか見て「へ~」ってちょっと冷めた目になってました。おとなしくしてれば怒られることもないのかと。従姉妹がやらかしすぎて、私は何もしてなければ勝手に褒められて。それで大人の機嫌をとって、こうしてれば「いい子だね」って言ってもらえるのかな?みたいな、そういうのもあったかもしれません。
岡 :自分を色にたとえると何色ですか。
森田:人に言われるのはオレンジとか黄色ですね。高校までだったら、それこそ紫とか黒とか灰色とか……今はちょっと暖色系になったかなと思います。ちなみに好きな色は青です。
岡 :どんな人が好きですか。
森田:人類一般で言えば、自分にないものを持ってる人ですね。そういう人には憧れるし、憧れるって意味で好き。あと、これも異性同性に限らずですけど、わりと大人っぽい人が好きですね。小さい頃、自分の周りに大人が多かったっていうのもあって、部活とか研究室でも、後輩でいる方が楽というところがあります。大人っぽい人といると落ち着きますね。
岡 :「自分にないもの」というのは?
森田:才能というよりは、自分にできない考え方を持ってる人、ですね。自分にできない考え方だなって思うと、すごいなあって思います。あと、自分が疑問に思わないことも、「それってどうなの?」って思える人もいいですね。
異性だと、ちゃんとお互いのことが尊敬できる人がいいなって思ってます。一番私の嫌いなタイプが「うわべだけ褒める人」なんですよ。たとえば中1の時とか、私はクラスの中でできる方だったので、でもそれで毎回「すごいね~すごいね~」って言われるのが本当に嫌で。今も、大学どこ?聞かれたときに、東大って答えた瞬間、「へーすごい!」って言われると、「は~さよなら」って思っちゃいますね。こういう研究をしてるとか、私のやってることを理解した上で、「すごいことやってるんだね」ってリスペクトしてくれるのは、普通にありがたいなって思うんですけど。特に、同性より異性にうわべを褒められる方が嫌です。逆に舐められてるように感じます。
岡 :森田の恋愛観を聞かせてください。
森田:ボート部員にはほんとに恋愛感情ゼロなんですけど、さっきの話みたいに、何でもうわべだけじゃなくて、こちらのことを理解した上でリスペクトしてくれるという意味では、ボート部の人はみんないいなって思います。自分の時間がすごく好きなので、一日の中で一人になる時間は絶対ほしいですね。あと、子どもはほしいです。可愛いから。たまに母親が可愛い赤ちゃんの動画とか送ってくれるんですよ、それがすごく可愛くて。
でも、自分のやりたいこと、たとえば仕事とかがあって、家庭か仕事か、どちらかを取らないといけないってなったら、私は仕事を取っちゃうような気もします。
岡 :生きるにあたって大切にしていることは何ですか。
森田:人生の中で、何か選択をしないといけない場面ってあるじゃないですか。その時にしっかり考えることも大切なんですけど、一旦決めたらもう割り切って、「自分の選択したことが最終的に一番正しくなるように行動する」とずっと思ってます。座右の銘みたいな感じですね。経験的に、あとからいくらでも挽回できるということも知っているので。
岡 :「経験的に」というのは?
森田:受験ですね。さっきの話にもありましたけど、中学受験は大失敗だったので。行った中学は小学校の系列校で、私はちゃんと外部受験で入ったんですけど、系列校に行く人って、あんまり勉強できない人っていうイメージがあって。なんというか、負けた感じがしちゃったんですよね。小学校で仲良かった子はちゃんと名門に受かってたし、「うーん」ってずっともやもやしていて……でも、最終的には東大に来れたし、中高の時も、いい先生にいっぱい会えたし、いい友達もできたし。東大で自分のやりたいことできてるし、かなり恵まれているのでは、と思ってます。もちろん東大が誰にとっても一番いいってわけじゃないですけど、一応日本のトップの大学だし。
進振りもそうですね。最初は建築に行きたかったけど、社会基盤に入ったからこそできたこともあるし、行きたい研究室にも行けたし。今から「建築に行けるよ」って言われても行かないと思います。
部活もそうですね。ボート部に入る時にもすっごく悩んで、最後は「えいや」で決めて入ったんですけど、結果的には良かったなと思います。朝練が終わって8時で、みんな寝てる時間なのに、私はもう一運動したし、ちょっと得した気分だなあ、とか。東商戦に勝ったときも、「部活も勉強も両方やっててすごい」って色んな人に言ってもらえたのが嬉しかったり、他にも得られるものも多くて良かったなって思いました。
岡 :タイムマシンを一回使えるとしたら、いつどこに行きたいですか。
森田:反抗期が来る手前に行きたいですね。「反抗期起こすんじゃないよ」って自分に言ってやりたいです。
岡 :反抗期については、自分にとって必要なものだったって思う人もいるけどね。周りには大変な思いをさせたけど、あの時期があって良かったって思う人もいる。森田は、自分の反抗期を肯定的には捉えてないということかな?
森田:周りにいる温厚な友達って、だいたい反抗期がないんですよ。男子でもそういう人がいたりして。それでも人としてちゃんとできあがってるのはすごいと思って……家族とも、やっぱり円満な方が楽しいじゃないですか。一回こじれると大変だし、それに、反抗期を起こした方は終わってしまえば何も感じないけど、普通に良くないことしたなって……。
岡 :ボート部に入った理由を教えて下さい。
森田:一番直接の理由は、同期の中野美羽ちゃんが入部したことですね。「美羽ちゃん入ったよ」という電話を華織さんからもらって、つられて「私も入ります」ってその時言いました。正直に言うと、それが決め手でしたね。あの電話がなかったら、入ってたかどうか怪しいです。
あと、華織さんがごはんに連れて行ってくれた時に、私が「ボート部以外のこことここで迷ってて……」みたいな話をしたときに、話をすごく聞いてくれたのを覚えてます。他団体の名前をがんがん出しても、ちゃんと話を聞いてくれていて、話の内容と言うよりは、そのときの華織さんの態度を覚えてます。解決策を出してほしいっていうのがあったわけじゃなく、単純に話を聞いてくれたのがすごく嬉しかったです。あと、中野は聖美さんに勧誘されたんですけど、聖美さんは初めて見た時から「かっこいい!」って思ってました。なんかすごくイケメンなお姉さんがいる……みたいな。もう一目ぼれですね。
岡 :聖美さんはなんであんなにかっこいいんでしょう。
森田:聖美さん・華織さんペアは最強ですね。それにつられて入った女子が7人もいたので、とんでもないです。
岡 :今のチームにおける自分の役割を教えて下さい。
森田:なんというか……女子部のメンバーに対して、過度に干渉しないようにしてますね。相手に踏み込んでいく役割は江口がしてくれると思っていて。私はそういうのあんまり得意じゃないし、無理やりやっても良いことないので、基本的に、ちょっと引いたところから見るようにしています。人と親密になりすぎるのが好きじゃないっていうのもあるんですけど。
あとは、クルーでボートに乗ってるときは、なるべく厳しくありたいと思ってます。他のクルーは「ここが良かった」というコメントが多くて、それも良いんですけど、「良かった」で終わらせるのは違うって思ってて。成長できてるのはいいことだけど、そこで満足したくないというか。「次はこうしたい」とか、「ここが気になる」とか、乗艇中はなるべく言うようにしてますね。ただ、それを乗艇以外のときでもやると嫌な先輩になっちゃうんで、練習が終わったら切り替えるように意識しています。漕いでる時は、「なんで思ったようにいかないのかな?」って、たぶん気持ちが声色にも出てると思うんですけど、舟を降りたら切り替えようって最近頑張ってます。
岡 :森田の役割ってすごくいいよね。踏み込む人ばかりだと、うまくいかないときにドツボにはまってしまうことがある。踏み込む人も必要だけど、冷静な視点から、物事を前に進めていく人も必要。私はどちらかというと踏み込んでいくタイプなので、そっちを推しがちなんだけど、そればっかりじゃないということを森田に気づかせてもらいました。
森田:昔は、乗艇でうまくいかなかったことを練習後も引きずって、機嫌悪くなったりしてたんですけど、それって嫌だなって……メントレ始めてからですね。不機嫌でいていい理由があるときはいいと思うんですけど、終わってからもねちねちねちねちしてたのは違ったよなって、今は反省してます。
あとこれは小さいこだわりだけど、技術的に一番うまくありたいなって思ってます。体力面でももちろん一番でありたいけど、技術面だけは本当に誰にも負けたくない。
岡 :技術面でのこだわりはありますか。
森田:私のこだわりが一番出るのはフォワードですね。ペアやるようになってからすごく敏感になって。海外のクルーの動画なんかと比べて、なんでうちはこんなにふらふらするんだろうって。出力の違いはもちろんあるんですけど、それだけじゃないと思ってて。ただ、フォワードばっかり気にしすぎるのも良くないので、最近はドライブのことも考えるようになりました。ドライブ中の身体のしなりというか、ムチみたいな感じを出すことにも最近はこだわってます。一番はフォワードにこだわりたいけど、その前提を作るためにドライブを意識する、みたいな感じです。
岡 :フォワードって工夫しがいがあるよね。
森田:フォワードは邪念が表れやすいというか、どれくらい集中してるかってことがよくわかるんですよね。自分が集中してないときもクルーにはわかるんだろうなって思ったり。
岡 :ボート部でやってきて、嬉しかった瞬間を教えてください。
森田:感情の爆発度合いで言うと、今年の東商戦ですね。一番嬉しかったです。もちろん今年の京大戦も嬉しかったんですけど、「嬉しい」以上に「苦しい」が先に来たので……東商戦は、初めて勝ったっていうのもあるんですけど、最後の250mから笑いが止まらなくなって。「やばいこれ勝っちゃうよ!?」みたいな。にやにやしながら漕いでたので、「ビデオ撮らないで~」って思いながら。でも、終わった瞬間に泣けてきちゃって、すごく変な感じでした。
岡 :今年の東商戦は、序盤500mで勝負ついたように見えたので、私はそのあたりでにやっとしちゃいました。
森田:去年の東商戦で、最後の最後で腹切ってしまったので、それが脳裏に焼き付いていて。最後まで油断できないって思ってました。スパートの時、私が最後に言ったコールが「腹切りしない!」でしたね。はらはらしながら2000m漕いでました。
岡 :それでは、ボート部やってきてしんどかった瞬間は。
森田:1年生の5月くらいで、同期の中で一番最初にケガして、練習できなかった時期があって。駒トレは見学してましたけど、自分が動けないのがいやで、しばらく駒トレに行かなかったり。乗艇もできなくて。そこが最初にきつかった時で、今でもよく覚えてます。基本的に、ケガで離脱してるときがしんどいですね。
岡 :2年の京大戦のときもそうだったよね。
森田:あの時も、クルーが決まった後、「ああー」ってなって。しばらくみんなの顔を見たくなくなりましたね。
岡 :あの時は、森田はしんどかったと思うけど、できることをちゃんとやろうとする姿勢があって、良いなと思っていました。その後大きい故障がなくて本当に良かったね。
森田:本当に良かったです。
岡 :ボート部で自分が変わったなって思うところは。
森田:自分に甘々だったところが、多少厳しくなれるようになりました。メニューをちゃんと最後までこなすとか……私のうまくいかないときって、基本的に、気持ちが先に折れちゃうときなんですよね。そういうときに「もう一本」とか、多少は自分に課せるようになってきた。甘くなっちゃうときもあるんですけどね。
岡 :ボートやってると、自分に厳しくならざるをえないよね。
森田:あと、4年間通して所属できる大きなコミュニティが築けたことが大きいですね。意外と自分はそういうところに依存しちゃうんだなって。そこそこの距離感で、複数の色んなコミュニティを作る人もいると思うんですけど。私はどちらかというと、一つ大きなコミュニティがないと不安になっちゃうタイプなんだと思います。
岡 :逆に、ボート部でも自分が変わらないなって思うところは。
森田:わがままなところ。
岡 :わがままとは?
森田:ちょっとしたところで自分のこだわりが出るというか……日常生活でもB型っぽいんですよ。基本的に適当だけど、こだわりたいところはこだわるみたいな。たとえば、私は基本的に自分の漕ぎを信じていて。周りが大人なので合わせてくれるんですけど、思い返してみれば、自分の漕ぎを大きく変えてまで人に合わせたことってそんなにないなと。どちらかというと、自分の漕ぎに合わせてもらってきたので……だから、けっこうわがままなんじゃないかなって思ってます。
岡 :単純に、森田は一番漕ぎの癖がないというか、スタンダードな漕ぎをしてるので、自然とそうなるんじゃないかな?
森田:どうでしょうね……特に平松とか磯崎とか、今まで自分のやってきた漕ぎを変えてもらう場面が多かったなって。江口は漕ぎを変えようと思えば大胆にできる人で、新しい感覚をつかんでいけるんですけど、平松と磯崎は、自分の中にも「こう漕ぎたい」っていうのがある中で、変えろって言われて、すごく大変そうなのを見ていて。私はそういうことなかったな、というか……漕ぎ方を変えてほしいって、言うのは簡単ですけど、受け取る方としては大変ですよね。
岡 :ちなみに、私は漕ぎ方に相当癖があったにも関わらず、ほとんど漕ぎを変えられませんでした。
森田:あと、合宿生活とかしてると、それぞれの生活のこだわりって出ますよね。カップルで言うと、同棲した瞬間うまくいかなくなるみたいな……たとえば、母親に言われたことなんですけど、ドライヤーした後にちゃんと洗面台片付けるとか。ここ(山中寮)でのお風呂でも、お風呂に入る前に、脱衣所が汚れてたらクイックルワイパーかけるとか。私、基本的に部屋は汚いんですけど、寝るところとか、裸足で直接触れるところとか、そういうところはきれいにしたいこだわりがあって。作業するときにも、この音が絶対ダメみたいなのがあります。
岡 :私は、他の人のパソコンの音がすごく気になります。そこに人の感情を感じるともうダメですね。
森田:わかります! パソコンの種類にもよるんですよね。私は、研究室のパソコンとかは大丈夫なんですけど……あと、貧乏ゆすりもダメです。受験期とか色々対策編み出して、そのときは髪が長かったので、髪をこうやって下ろして(実演してくれる)カーテンにしてました。やってる側は無意識というか、自覚がないんだろうけど。
岡 :ボート競技の魅力を教えて下さい。
森田:めちゃめちゃ頭を使わないといけないところ。ただ身体を動かせばいいだけじゃなくて、しっかり考えないといけないんですよね。あとは、いやでも自分や他人のことを考えないといけないスポーツ。他のスポーツで、これくらい人のことを考えないといけない競技を知らないというか。水の上が気持ちいいっていうのもありますね。舟の横を、水がさらさらさらって流れていく音がすごく好きです。
岡 :ボート部の魅力を教えて下さい。
森田:財力。
岡 :財力……
森田:他大の人の話とか設備とか、そういうのを聞けば聞くほど、やっぱりお金は大事だなって。お金があるから、岩井さんみたいな方にも来ていただけるわけですよね。人も大事だけど、いい人を集めるためにもお金って大事で。国立大でここまでお金使えるのってすごいなって思います。安心感があるし、できることが桁違いというか。他の部活とかサークルの事情はよくわからないんですけどね。
あと、ボート部に入ってると、「大学に通ってる自分」と「ボート部の自分」が違う主人公みたいな感じがして。艇庫に戻って来るとボート部の人間に戻るし、一旦外に出ると、大学に通ってる普通の大学4年生の私になる。別の世界線を生きてるみたいで、不思議な感じです。これまでは、中高の部活も、あくまで学生生活の中の一環という意識だったので、ここまで違う世界があるのは初めてで。ボート部では完全にアスリートになっていて、そんな自分が面白いです。
岡 :確かに、色んな自分がいるっていいことだと思います。何か一つにのめりこむと、そこがうまくいかないときに、もうダメだってなってしまうことが多い。そういう時「別の自分」がいるから救われることもある。私も、職場の自分とボート部の自分は違う世界線を生きてるなと思います。
森田:違う世界線の自分どうしで、生かし合えるところもありますよね。
岡 :ボート部をやってきて後悔してることは。
森田:同期がやめるときに止めなかったことですかね。完全に引き止めはしなくても、話をちゃんと聞いてあげなかったことは、今わりと後悔しています。最初は同期の女子が7人いたこともあって、1人やめても、そこまで痛手だと感じていなくて。でも今は、つきフォアが組める人数ぎりぎりで、1人体調が崩れただけでも出艇できないという状態なので、人数が少ないからこその弊害を感じるようになりましたね。引き止めなかった自分ってだいぶドライだったなって、今は思います。
あとは、新人ジュニアの時にもうちょっと頑張れたはずだよな、と思います。当時は「女子だし」「ジュニアだし」みたいな甘えがあって。聖美さんはあれだけ漕いでるけど、うちらはまだ1年生だし……みたいな。今の磯崎とか見てると、自分はだいぶ甘えてたなって思います。それは結果が出なくて当たり前だよねって。
岡 :磯崎は、今から先輩と同じクルーで練習できているので、環境的にラッキーだったと思います
森田:でも、今みたいな女子部が続けばいいなって思います。
あとは、ボート部を言い訳にしてやらなかったことが色々あって、もったいなかったなって。1、2年生のときだったら、もっと勉強とか、それこそ留学とか、やろうと思えばできたはず。ボート部も、今は一部練になってることもあって、ぶっちゃけ他の人と生活変わらないと思うんですよ。ちょっと朝早く練習してるだけで。寝るのが早いくらいで、確かに夜遊びはできないですけど、部活を言い訳に「できないこと」ってあんまりないなと思います。その分、大学院ではインターンとかめっちゃ行きたいですね。
岡 :引退までに成し遂げたいことは。
森田:エルゴ2000mTTで7:50を切りたいです。あと10秒は上げないといけないし、コロナで休んでたこともあって、ちょっとびびってますけど。それくらいは出したいなって……自分に勝つという意味で。あと、最近の女子部ミーティングでも「過程にこだわるか結果にこだわるか?」という話題がありましたけど、どちらも納得できるような終わり方がいいですね。過程については、もうある程度満足できると思います。だから、それを裏付けできる結果が乗ってくれたら、もっと嬉しいなと思って。そこがクルーとして成し遂げたいことですね。
あと、ボート部の中の一部員という意味だと、自分は上の代の先輩から確かにもらってきたものもあるけど、望むほどはもらえなかったな、という思いがあって。それを後輩が感じないように、自分が持ってる引き出しとか、考え方とか技術とか、惜しみなく伝えていきたいと思ってます。今も、乗艇中はフォーカスに集中したいこともあるので、あんまり言い過ぎない方がいいかなと思いつつ、乗艇じゃないと言えないこともあるので、気になることはどんどん言いたくなっちゃいます。一緒に舟に乗れる今のうちにって思って。女子部が存続してほしいっていうよりは、強い女子部が存続してほしいって思います。活気があるチームというか、ただ存続するだけだったら簡単かもしれないですけど、みんながちゃんと本気で取り組んで、ちゃんと結果も残せるような女子部が続いてほしい。そのための第一歩を自分たちの代で築きたいですね。
岡 :どんな大人になりたいですか。
森田:年下から「すごい」って言われる大人ですね。どこかで聞いたんですけど、上の人から好かれて下の人から好かれない人って、結局ダメというか……自分を褒めてくれる上の人がいなくなったら、そこで終わってしまうわけですよね。そうじゃなくて、上の人から多少「何だあいつ?」って思われても、自分のやりたいことを体現して、それに自然と人がついてきてくれるような人はかっこいいなって思います。
岡 :確かに、上から好かれるだけなら、上手く振る舞えばそれでいいわけだからね。下の人から好かれる人って、やっぱり人望というか、ベースにある考え方がしっかりしてるよね。
森田:今も研究室で色んなOBに会ったりするんですけど、その人が帰った後で、「あの人すごいよね」って話になったりとかして。そう思ってもらえるのってすごいなって思うんです。そのためにどうしたらいいかはまだわからないですけど。上に媚びて、上手いことすりぬけて出世してくよりは、多少色んなところにぶちあたってても、道を切り開いていけるような人になりたいです。
これも最近人から、「他人と同じ道を人より速く行くよりも、別の最短経路を開拓することに価値がある。人のやってきたことを効率よくできるようになるよりも、自分で自分の道を切り開いていく方が意義深いし、その道を、あとから追っかけてきてくれる人もいるかもしれない。そういう生き方のほうが楽しくない?」って言われて。すでにある技術を更新するというよりは、新しい項目を作る方が意味のある人生じゃないかって……そういうのおもしろいなって思います。
岡 :それでは最後に、これを読んでくださってる方々にメッセージを。
森田:んーと、そうですね……ボート部と言う長い歴史の中で、女子部員もいっぱいいたと思うんですけど、「こういう人もいたんだな」というくらいの気持ちで留めておいていただけるとありがたいです。こういう人間でもとりあえず4年間できました、ということですね。恥ずかしいのでこれくらいで!
岡 :ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。
実は森田たちが新人の頃、私がコーチになる前の話ですが、女子部食事会で私の近くに森田が座っていました。
初対面の人にもわりと臆せず自然な会話ができていて、なんとなく人当たりの良い印象でした。
しかし深く関わってみると、ただ人当たりが良いだけではない、ちょっと尖ったところや切り込み隊長的な面を持ち合わせていて、そこが彼女の何よりの魅力ですね。
インカレでは彼女のこだわりの漕ぎにどうぞご期待ください。
次回もお楽しみに。
女子部コーチ
岡













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