(写真左)朝倉直樹ヘッドコーチ×(写真右)岩井雄史ストレングスコーチ
【インタビュアー】4年コックス 大石華織
大石:新4年コックスで女子部主将を務めております、大石華織です。早速ですが朝倉ヘッドコーチ、現役時代の漕歴や現役を引退された後の漕艇部との関わり方を含め自己紹介していただければと思います。
朝倉:学生の時はちょうど大学紛争の時だったので、5年間大学にいました。主に種目としてはエイトに乗っていて、昭和46年の全日本選手権エイトの優勝クルーでした。それからOBになってからも少し漕いでいて、全日本選手権の最初の年に淡青会っていうOB会のクルーで優勝しています。その後も漕艇部の若手OBとして漕いだりちょっとしたコーチをやったりしていて、あとは30代くらいから日本ボート協会の仕事もするようになり、日本ボート協会の仕事の中で海外遠征や、ナショナルチームの強化などにも少し関わってきました。東大漕艇部のOB会の組織である淡青会の活動もしているっていうことで、要するに50年以上も長くボート部とは関係していて個人的にもいろんな形で自分の人生で大変お世話になっているという感じです。
現役漕手時代の朝倉コーチ(整調)
大石:ありがとうございます。では岩井さんにも自己紹介の方をしていただきたいと思うのですが、自分のスポーツ歴と、東大漕艇部との関わりを持つに至った経緯を話していただきたいと思います。
岩井:私の競技歴ですが陸上の短距離をしてました。100mを専門にやってて将来短距離のコーチをしたいと思って、大学に行ってバイオメカニクス専攻しました。それでたまたま最初に指導のオファーが来たのがボート部だったんです。コーチングはたくさんやらないと上手くならないので軽い気持ちでコーチングをしたんですが、その時の選手の勝ちたい思いというのにすごく心を打たれて、そこから選手の要望だとか自分で学んだりすることを通して、ボート競技のことを勉強し始めたということになります。その結果、勝てなかったチームは勝てるようになって、そこから人伝にこういうコーチがいるというのが伝わったことによって、いろんなクラブから指導のオファーが届いたということになってます。その中で、NTT東日本など強いチームを作っていこうと思うと、自分自身がもっと勉強していかなければいけない。経験論だけではなくて、客観的な裏付けも必要だということなので、勉強したくて野崎先生(東大漕艇部部長)のところに勉強したいという旨の相談をしに行ったことがありまして、そこから東大のボート部も見てくれないかという話に行き着きまして、今東大ボート部のフィジカルコーチも務めることになり今に至ってます。
ラダートレーニングの講習会の様子
大石:ありがとうございます。さらに深く聞いていきたいなと思ってるのですが、まず朝倉さん、現役時代のお話を先ほどをしていただきましたが、現役の漕手としての活動を終えた後になぜコーチとして関わり方を変えて漕艇部に戻ってこようと思われたのですか?
朝倉:あまり深い考えはなくて、基本的にボートっていうのは大学の四年間ではやっぱり本当に続けようと思うと終わらない。選手としてのピークは20代の後半と言われているんですね。 だから実際もうちょっとやりたいっていうことが多くて社会人になってからもそのころはちゃんと仕事をしながらある程度休日に漕いだりとかいうことがあって。そういう面で卒業してからも現役の人たちとある程度の関わりがあったので、自然にちょっとコーチをするということになりました。これは今の現役の人たちにも勧めているですけれども、とりあえず卒業して終わりじゃなくて、大学院生なんかもどんどん漕いで欲しいというのは、そういう意味合いがあります。ですから帰ってきたというよりはずっとなんらかの形でボートとの繋がりは持っていて、全くゼロだったのが戻ってきたというイメージは僕にはないんですね。
大石:ありがとうございます。ボートのピークが20代後半というのを私はあまり意識していなくって、知らなかったので、すごく新鮮な気持ちになりました。
朝倉:そうですね。オリンピックで5回優勝したイギリスのレッドグレーヴは、当然のことながら一番最初に勝った時は20歳なるかならないかぐらいだったと思うので、そういう選手もいますけれども、平均的にはやはり20代後半っていうのが多いと思いますね。
大石:では現役4年間ないし5年間という区切りをつけずに、まだボートを漕手としてちゃんと突き詰めていきたいっていう気持ちでずっと関わりを持ち続けて、そこからその関わりが繋がる感じでコーチとしても動いていただいたということでしょうか。
朝倉:艇庫に時々行っていた時に、じゃあ今年このクルー見てくれないって言って、東商戦の付きフォアが最初だったと思います。どちらかというと現役で少し漕いでて、仕事がだんだん忙しくなってきてそれができなくなったので、ボートとの関わりもやや漕いでた頃と比べると疎遠になって、そこから教えるという立場からはちょっと繋がりは薄くなって、その代わりOB会の方の活動に移ったという感じでしょうかね。
大石:ありがとうございます。岩井さんにもお伺いしたいんですけれども、先ほど経歴の部分で少しお話ししていただきましたが、陸上選手として大学で勉強されて、そのあと初めてコーチを任されたのはボートという競技で、ボート選手と接する上で勝ちたいという気持ちに感化されてということでしたが、本来自分がずっと考えてきた陸上のコーチングをしたいという気持ちにはならなかったんでしょうか。
岩井:それは実は今もやってます。ただそれは現役選手ではなくて、マスターズ選手ということで、主に年配の方なんですけど、その方々の指導は続けてまして。なので、そういう意味で選手の対象は違いますが、やれてるので満足はしています。
大石:陸上とボートの競技特性に共通点とかあったりするんですか?
岩井:まず、選手に勝ちたいという気持ちがあるのは共通してます。その中で、継続していくことが一番強くなる秘訣ですから、怪我をしない・させない。そこも大きなポイントで。ボート競技の場合は腰痛が多い。陸上短距離、特にマスターズの方の場合はいろんな怪我を持っていますので、腰が痛いだとか足・膝が痛いだとか。あとは年配の方とかなので普段の体調とかそういったコンディションに対しても敏感になっていると。だからそういった意味でマスターズの人が気にすることは、ボート選手、トップアスリートにとっても大事なことなので、そういった意味でどちらからも学びながら共通認識を持てるようにしてるなというのはありますね。
ランの講習会の様子。毎回丁寧に指導してくださいます。
大石:では最後の質問になりますが、日々のコーチングの中で最も大切にしていることっていうのは何でしょうか。
朝倉:難しい質問ですね(笑)。基本的には選手が主役なので、選手がどういうことを望んでいるかっていうのでコーチングは変わってくると思うんですね。だからその岩井さんが先ほど言われたように、学生は勝ちたいっていうことでかなり一生懸命やる、無理なことも頑張ってやるっていうのがあるだろうし、マスターズの人達はどちらかというとそこそこ年齢に応じた陸上競技を楽しみたいっていうことでやってると思うんで。ですが、だからといって学生が全てとにかく勝ちたい勝ちたいという一心でボートをやっているとは僕は思わないので、その中でボートから何を得たいかっていうことをそれぞれの学生が持っている希望とか、あとはボート競技でこんなことしてみたいなって思ってる、そういう思いは大切にしてコーチをしなきゃいけないと思ってます。その中で強いていうならば、ボートが持ってるその something special っていうのを是非味わってもらいたいと思ってます。ボート競技が持っている美しさだとか、それからチームとして動くときの独特の人間関係とか、そういったようなものを是非持ってもらいたいと思うんですね。その面ではまず基礎が大切で、ボートの基礎っていうのができないといけないと思います。例えばフィギュアスケートで三回転とか四回転とかのジャンプをする選手が普段何も飛ばない時によろよろと滑っているのかっていうとそういうことはなくて、すごくしなやかに滑らかにスケーティングしてるわけですよね。ボートも同じで、いかに柔らかくしなやかにゆっくり漕げるかっていうのが基礎なんですけれども、それができないとレースの時に疾風怒濤のように岩井さんにムチを入れてもらったときのように頑張れるっていう素地がないわけですね。だからその是非両方をきちんとマスターしてほしいと。ボートの PR をする時に私は波の立たない水面をゆっくりと進んでいくボートの画面と、それからレースの時の迫力のある画面と、この両方をみてもらいたいなと思って。よくボート競技とは何ですかって言った時に、オリンピックのエイトの決勝レースとかそういう迫力のあるものを見るんだけど、私的にはそれよりもっと好きなのは本当に鏡のような水面を綺麗に滑らかに進むボートっていうのがいいと思うんですね。そういうところをぜひ楽しんでもらいたいと思うのが、私のコーチングの基本と言えると思います。
新人の時から女子部の選手は朝倉コーチにお世話になっていました。
岩井:私の立場は強くすることという使命をもらって関係していますので、そうしたところで言うと、まずは選手達には勝ちたいっていう気持ちを持ってもらうこともあるんですけれど、やっぱりボート競技は初心者でも日本一になれる競技なんだっていうことを伝えたいと思ってます。可能の反対は不可能と言いますけど、競技スポーツの場合は挑戦というのが当てはまるかなということであって、その勝てない相手に勝とうとしていく過程の中にチームの戦略、そして仲間とのコミュニケーション、一体感、そういったものがないと勝てないので、そうしたところを普段の乗艇練習、トレーニング以外でも大事にして欲しいなとそういうふうに思っています。それによって一体感が出たチームは、チーム全体が強くなりますので、そこから勝てるというところに近づいていってるというふうに思ってますから、そういったところで練習以外のところにもチーム全体を強くするという意識を持って関わって欲しいなというふうに考えております。
大石:ありがとうございます。朝倉さんもおっしゃってましたけど、something specialという練習以外のチームの一体感であったりとか人との関わりであったりというところも大切にしてもらいたいっていうのはお二人の共通のお考えなんですね。
明治との合同練習の際に行われた岩井コーチの講習会の様子