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漕艇部での経験を振り返って-谷田巌(2004年入学・漕手)

今回ご紹介するのは、漕手としてご活躍し、現在は石垣島で研究をなさっている谷田巌先輩です!

自己紹介

新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。OBの谷田巖と申します。私は、2004年に桐蔭学園高校を卒業し、理科二類に入学、農学部を卒業しました。

 その後は、大学院の農学生命科学研究科水圏生物科学専攻に進学し、2015年に博士号を取得しました。

 現在は、国立研究開発法人水産研究・教育機構で研究員として、石垣島で勤務しています。

東大漕艇部に入部された経緯や入部動機についてお聞かせください。

乗艇中の一枚

私自身が大学に入学したときは、大学生活全般について、どのように過ごすかを明確に決めていたわけでもありませんでした。ただ、高校時代は運動部に入っていなかったので、大学ではなにか運動をやってみようと考えていました。 

 そのような中で、漕艇部に入部したきっかけは、試乗会に参加してみて、また、先輩部員から活動内容について丁寧に説明してもらい、興味を持てたというのが大きかったと思います。

東大漕艇部での活動を通して、心震えたことはありましたか?

レースで勝つことの難しさ

東大漕艇部での活動で心に残っているのは、レースで勝つことの難しさです。体力・技術ともに未熟だった最初の頃のレースはボロ負けすることが多く、大きな壁を感じました。

 練習を積んで少しずつ勝てるようになってきても、レースでは全長2kmのコースで僅かな艇身差で勝ち負けが決まることも多く、他艇と横並びで競りながら一漕ぎも気が抜けない緊張感があります。そのため、日頃から、クルーの漕ぎの完成度を少しでも高めるために、ボートを漕いだり陸上トレーニングをしたりと、練習に明け暮れていたというのが思い出です。

 嬉しかったのは、練習を重ねてと体力や技術が伸びてきて、また、クルーの全員の漕ぎをだんだん合わせられるようになってくると、艇が水上を滑るように進むようになってきたことです。そうした達成感が得られたときというのが、ボート競技で一番の楽しかった部分でした。

谷田さんにとって、ボートや東大漕艇部の魅力を教えてください。

仲間と一緒だったから頑張れた

 漕艇部では、自分の体力や技術の限界を感じるくらいに、相当な練習量をこなすわけですが、今から振り返ると、大学までスポーツとあまり縁のなかった人間が、よくそこまで追い込めたなというのが正直な感想です。 

 一人だったらとてもそこまではできなかったと思いますが、きつい練習でも他の部員たちと楽しい雰囲気で取り組めたというのが大きかったと思います。

ーなるほど…確かに、漕艇部の練習は朝と夜にあるので多いですよね。部活動と学業を両立するコツや、その際大事にされていたことはありますか?

 これについてはシンプルに、両方できるだけ手を抜かずにやるというしかないと思います。 大学は苦手科目だと授業についていくのも結構大変ですが、あきらめずに、勉強も部活も、自分で興味を持って取り組む姿勢が大事だと思います。

東大漕艇部での4年間はどの様なものでしたか?今に活きていることはありますか?

 仲間に支えてもらった

自分にとっては大学生活の中で漕艇部での活動が占めるウェイトが大きかったので、それ抜きでの大学生活と客観的に比べることはできませんが、漕艇部での仲間には部活内外で大学生活全般を一緒に送り、また、色々と支えてもらえたことは大きかったと思います。

 例えば、夏季休暇中などの合宿練習では午前・午後の練習があり、スケジュール全体の練習量がとても多く、最初は全部こなせるか心配だった記憶があります。しかし、部員たちと色々と試行錯誤しながら漕法の練習をしたり、一緒に寝食を共にしながら練習に明け暮れていると、体力的にはきつい練習でも、全部終わってみると結構楽しみながらこなしていました。

 部活外でも、大学の授業の試験やレポート対策など相談したり教えてもらったりしたので、大学生活全般で部員とのつながりが多かったと思います。

研究の道に進まれたきっかけや、石垣島での研究内容をお教えください。

大学から大学院の研究室では「海洋学」という分野が専門で(海水中の栄養やプランクトンなどを扱っていました)、調査船での多くの研究航海に参加し、最先端の研究に携わる機会を得ました。そうした研究に楽しさを感じて博士課程に進学したことが、現在、研究の道に進むきっかけとなったと思います。

 ただ、論文数が少なかったので、大学院を終えて研究職を見つけられるかは分からなかったのですが、運良く現在の職場に採用してもらい、研究を続けられています。(なお、内定時は全国に複数ある研究所のうちどこに配属されるか不明で、配属先は自分で選んだわけでなく、採用先の研究機関によって決められました。)

ー石垣島への配属は、偶然だったという訳ですね。なんだか羨ましい…

 石垣島での研究内容は、研究環境の違いもあって大学院時代のテーマとは大きく変わりましたが、熱帯から亜熱帯に分布する食用となるナマコの生態や保全、養殖技術などを主なテーマとして研究しています。

 石垣島は、町にスーパーなどは一通りあって、ないものは今は通販で入手できるので、普通に生活するにはそれほど不便はないです。ただ、小さい島ですので、最初の数年はいろいろと見て回ったりもしましたが、今は休みの日にどこかに遠出するというのもあまり無いですね。島外に出るにも飛行機なので、それほど機会は多くなく、かなり限られた範囲で生活していると思います。

石垣島でのお写真。
ぎゃ、逆光が…

研究者というお仕事の中で大事になさっていることややりがい、また仕事をされる中で心震える経験やご苦労などがあればお教えいただきたいです。

研究という仕事では、テーマ選びに関しては研究者個人の自由度が比較的高いです。しかし、うまく結果が出せるかどうかや、研究体制も含めて検討しなければならないので、そこが難しいところでもあります。研究手法などの知識も常に勉強し続けなければなりません。また、出てきた複雑な結果を解釈して、多数の既存知見を引用しつつ、分かりやすいストーリーにして論文にまとめる作業も、経験が必要です。

 そうした苦労もありますが、自分のオリジナルな考えや解釈をまとめて発信できるというのはやりがいのあるところだと思います。

 あと、新しい研究分野で評価を得て、研究を軌道に乗せるまでは大変なところもありますが、周囲からサポートしてくれる人もいるので、そうした人たちの期待に答える形でチャンスを活かしていくということも大事だと思います。

本気で仲間と取り組んだからこその成功や失敗

 漕艇部での経験がその後の人生で直接役立つことはそう多くは無いのかもしれません。ですが、大学生活の中で多くの時間を費やし、部員たちと難しい目標にチャレンジしてみての、成功や失敗体験というのは貴重な経験だと思います。人生の一時期の思い出を形作るわけですから。

 また、フィールドワークの多い仕事なので、体力的な部分で役立つ面もあると思います。

最後に、新入生へのメッセージをお願いします。

高校から大学、社会人と進むにつれて、人それぞれ多様な進路や生き方を選んでいくわけですが、完全に自由ななかでどういう選択をするか迷うことも多いと思います。特に、大学生活は時間の使い方に自由度が高い時期ですので、まずは色々なことに興味を持って取り組まれたら良いと思います。

 その中には、芽の出ること、出ないこともあると思います。でも、失敗したり、周りから評価されないことというのは、社会では当たり前にあることです。だから、そういったことはあまり気にせず、次にどんな面白い手が打てるかを考えるという姿勢が大事ではないかと私個人は思っています。そうしたなかで、それぞれのオリジナリティを見つけていってもらえればと思います。

ボートは同じ動きの繰り返しという点で、とても単純なスポーツに思われがちだが、サイクル運動である分、一本一本の漕ぎの技術が重視される。さらに、風や波などの自然環境によって艇速は左右する。実に沢山の要素が絡み合った複雑なスポーツなのである。練習を積んだからといって、必ず結果が伴うとは限らない。それでも東大の漕艇部員は、一つ一つの練習を真摯にこなす。いつか日本一が獲れると信じて。

 谷田先輩のメッセージからは、そんな大きな夢を描いて、工夫をこらしながら練習する東大漕艇部員の脈々と受け継がれてきたポリシーを感じた。

谷田先輩、お話を聞かせていただき、有難うございました!

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