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オールという翼-北川直優(2003年入学・漕手)

今回ご紹介するのは、身長166cmと漕ぎ手としては小柄ながら素晴らしい戦績を残された北川直優先輩です!

自己紹介

新入生の皆さん、こんにちは。北川直優と申します。平成15年に国立京都教育大学教育学部附属高等学校(現:京都教育大学附属高等学校)を卒業し、理科一類に入学しました。理学部地球惑星物理学科に進学し、修士・博士課程は理学系研究科地球惑星科学専攻で太陽コロナのUV-X線領域の分光観測データ解析に取り組んできました。

その後、ポスドクを経て住友化学株式会社に入社し、現在はスマートフォンやTVに用いられる偏光板など、光学機能を有するフィルム製品等の開発に勤しんでいます。

東大漕艇部に入部された経緯や入部動機についてお聞かせください。

前提として、高校時代は帰宅部でした。ただ、ちょっと変わった趣味として近所で螳螂拳を習っていました。さて、ボート部に入部するに至ったのには、いくつか理由があります。

    まず、水辺が好きでした。高校まで滋賀県に住んでおり、琵琶湖で釣りをしたり、泳いだり、ずっとそばに水辺がありました。大学への入学時に初めて東京に住むことになり、近くに湖がないことに若干の不安を覚えました。大学構内でもらった部活動・サークルのパンフレットをぱらぱら眺めていると、ボート部というどうやら水辺のスポーツをやっている運動部があるではありませんか。「ボート」がどういうものか当時の私はまったく知りませんでしたが、水辺に触れて心に潤いをもたらせるのではないかと(笑)、気になりました。似たような境遇のアナタにボート部をおすすめします。

    次に、強くなりたいと思いました。高校まで英語や数学、物理や化学の勉強に時間を割いて知識や思考を身につけてきたわけですが、身体能力を高めたいという漠然とした思いも常にもっていました。そんな私にとって、大学の運動部というのは絶好のチャンスです。「ボート」がどういうものかはさておき、ボート部の紹介イベントで話していた先輩方が大学生と思えないくらい精悍な顔つきに見えて、これはすごい集団だと感じました。自分もこんな風になりたいと思いました。

 ボート部では、走る・跳ぶ・持ち上げるといった身体能力はもちろんですが、それだけでなく目標を見定めて、その目標に向かう道を見つけ、その道中で起きるさまざまな問題を解決してゆく能力も得られます。そういう広い意味で、トレーニングに興味のあるアナタにボート部をおすすめします。

大漕艇部では漕手としてご活躍なさっていましたが、4年間の部活の中で心震えたことはありましたか?

普段のトレーニングこそが心を穏やかにする

やはり何といってもスポーツの醍醐味は、競い合うこと。トレーニングの成果が実って、レースで勝った時には100%の爽快感に満たされます。

しかし、普段積み重ねるトレーニングこそが、心を穏やかに満たします。川の水面を滑り続ける感覚は、ボートならではの魅力。そして、川の風景が四季の移ろいに伴って色を変えるのを肌で感じられることも貴重な体験です。

逆に、部活で苦しかったことはありましたか?もしあればその苦節をどのように切り拓かれましたか?

体格の不利を乗り越えた

皆さんもジムなどで見かけたことがあるかもしれませんが、ボートのトレーニングではエルゴメーターという、ボートを模したトレーニングマシンをよく使います。トレーニングとしてだけでなく、レースに必要な体力の参考値としてこのエルゴメーターで2000mを漕ぎ切るタイムが重要だと考えられていて、7分というのがレースで戦う一つの指標となります。遅くても2年生の冬になる頃には7分を切るのが標準的な選手のレベルですが、3年生になっても私は7分を切ることができませんでした。身長が166cmと日本人の平均身長よりも低いためそもそも不利なのですが、そこで諦めたらもう先はありません。

当時、ヘッドコーチとの間で「身長が低いメンバー5-6人でチーム(当時S組と呼ばれました)を組んで特別なメニューで練習してみないか」という相談になり、勇んでその話に乗りました。部活の中での立場も気になりましたが、他の多くのメンバーがやっているメニューとは内容と負荷が異なるメリハリのある練習メニューを実行して(休養も宣言して思い切って取りました(笑))、多くのメンバーが1年以内に7分を切ることができました。私も3年生の夏に7分を切り、嬉しすぎて「切ったぞ」と叫びながら走って、ウェイトトレーニングのバーに頭をぶつけて倒れました。

ー嬉しすぎて走り回り、バーに頭をぶつけた…痛そうですね具体的には、S組はどのような練習メニューをこなしていたのですか?

まず、普段のトレーニングメニューを自分たち仕様にカスタマイズしました。基本的なメニューの組み方には、東大漕艇部の蓄積に基づいた王道があります。

しかし、体格に恵まれないS組のメンバーが体力を伸ばすために、まずトレーニングに関する教科書も読みました。そして、採用した基本方針が①ウェイトトレーニングを活用して爆発的な動きを生むカラダ作り、②通常実施されていたメニューよりも長い距離を漕ぎカラダに馴染ませる、③その代わり休養もしっかり取る、④それにより2000mを漕ぎ抜く、でした。

当時のS組と。左から3人目が北川先輩。

選手がメニューを考える

チームリーダーであった私が1か月ごとのメニュー大枠を立案して、メンバー全員に相談して皆の意見を元にメニューを決定。メンバー数が5-6人と多くなかったので、全員が意見を出して全員が納得して練習に臨むことを重視していました。また、1週間ごとに現状をフィードバックして修正していました。軌道修正も一つの大事な作業だと思っていたので、疲労がたまっていて故障のリスクが高まっていると判断した時には、思い切って非常に軽いメニューに変更しました。

現在のお仕事に就かれた経緯やお仕事内容、お仕事で心震える時があればお聞きしたいです。

仕事での喜びは、ボートの喜びと似ている

はじめにお話ししたように、修士・博士課程は理学系研究科地球惑星科学専攻に進学し、太陽コロナのUV-X線領域の分光観測データ解析に取り組みました。その後、国立天文台のポスドクを1年間やっておりましたが、国立天文台の端のほうの小屋にある望遠鏡のメンテナンス業務の合間に一人で過ごす時間が多くありました。 その間に、社会情勢をネットで調べていて、この人生、もっと実用的な研究・開発に携わりたいと考え始めて住友化学株式会社に就職しました。入社直後は本社で開発管理を統括する部署で広く技術検討を見る仕事に従事しておりましたが、その後は研究所にてスマートフォンやTVに用いられる偏光板など、光学機能を有するフィルム製品の開発を進めています。

大学院での研究内容が太陽コロナだったため、そこで得た知識が仕事で直接活きることはまずありませんが(笑)、得意としている解析手法や物理の基本的な概念などが他の研究員と異なるため、会社においてはレアな存在となっています。

 設計したフィルムの組成の特性がよいとわかった時が、仕事で嬉しい瞬間です。ボート部でカラダと漕ぎを作り上げて、2000mのゴールラインを走り抜けた瞬間と似た爽快感かもしれませんね。

ーお仕事で、漕艇部での経験が活きている、と感じられることはありますか?

必ず解決できる、というポジティブ思考

入部動機でお話ししたように、ボート部で得られるものは、走る・跳ぶ・持ち上げるといった基本的な身体能力と、目標に達するまでの道のりを見出す能力、その道中で起きるさまざまな問題を解決してゆく能力です。身体が活性化されると脳も活性化されて、さまざまな新しい分野にチャレンジしたくなります。

世の中、問題なく上手くいくことはなかなかありません。でも、ボート部でいろんな問題にぶつかったこと、何とか乗り切ろうとした経験があるおかげでしょうか、今日常生活や会社で問題が発生しても「必ず解決できるはず」と寧ろポジティブな気分で動き出しています。

最後に、新入生へのメッセージをお願いします。

ボート部で出会った仲間が、人生を豊かにしてくれた

何よりも大切なのは、ボート部で出会った仲間です。レースに勝つために切磋琢磨し、励まし合いながら共にチームとしての漕力を高めていく4年間は、人生において濃密な時間となるでしょう。その後、社会に出たり、大学院に進学したりしてからの長い人生、進む道はそれぞれですが、時に集まり話をすることで豊かな人生が築かれます。

    今、新入生の皆さんはとても大事な選択の瞬間に立っています。

これから始まる大学生活やその後の人生を豊かにする部活動・サークルを見つけられることを願います。

    ボート部も一つの選択肢です。

以上 皆さんの輝かしい大学生活を祈念して、大阪にて

東大生は、やはり私大のセレクションを経て入部した学生とは体格や体力に差がある。特に、体格の大きさが有利に働くボート競技では、壁は高い。

その壁を乗り越えた、北川先輩率いるS組を、尊敬する。

現在の東大漕艇部でもTraining Peaksというサービスを使って選手一人ひとりの体調に合わせたメニュー提案を行っている。

体格の不利を乗り越えるために独自のメニューを編み出して実践する創造性は、今も脈々と東大漕艇部に受け継がれている。

北川先輩、お話を聞かせてくださりありがとうございました!

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