東大漕艇部で学んだこと-小路 寿夫(2001年入学・漕手・主将)

今回ご紹介するのは、主将として平成の低迷期から漕艇部を復活に導いた小路寿夫先輩です。卒業後は金融機関での勤務を経てコンサルタントとしてご活躍されています。

自己紹介

新入生の皆さん、コロナ禍の苦難を乗り越えての東大合格、おめでとうございます。小路寿夫(しょうじとしお)と申します。2001年(平成13年)に開成高校を卒業し、文科Ⅰ類に入学しました。法学部を卒業後、銀行に就職し、現在はコンサルティングファームで働いております。

東大漕艇部に入部された経緯や入部動機についてお聞かせください。

もともと部活に入るつもりはありませんでしたが、健康診断後に勧誘され、「3分でいいから話を聞いて欲しい」と言われて説明を受けたところ、その活動内容や先輩の紳士的な立ち振舞いにすっかり魅了されてしまいました。

内容は「文Ⅰから理Ⅲまで、様々なバックグラウンドを持った仲間が一つのフネに乗って、日本一を目指す」というもので、「何だか楽しそう!」と思いました。部員は皆スーツ姿で体格が良く、運動部にしては地味な印象を受けましたが、皆明るく紳士的で、部員同士の絆も深いように思われ、大きな目標に向かって真剣に取り組む姿に感銘を受け「自分もこうなりたい」と思いました。初期の段階では体力も不要だし、運動神経も要らない、選手としての入部資格は「健全な肉体と向上心のみ」というので、「とりあえずやってみるか」という気になりました。当時、「勉強が得意なだけでは東大では埋没してしまうし、世の中でも生きていけない。心身ともに鍛えて、人間として一回り大きくなりたい」という願望があり、それには漕艇部の活動内容がピッタリのように感じて、入部を決めました

とはいえ、不安も沢山ありました。高校までスポーツ経験がなく、体力もなければ運動神経もない。集団行動もどちらかと言うと苦手。こんな僕で大丈夫なのだろうか?と思いましたが、練習に出るうちに不安は解消されていきました。

新人期の最初のトレーニングは、「時間は5分、但しその5分は真剣に集中しよう」「他の人と比べるのではなく、自分の記録を伸ばそう」といったもの。東大の新入生は体力が無い、ということを前提にメニューが組まれていましたから、無理なく必要な体力をつけていくことができました。また、実際に体験練習でボートを漕いでみると、どちらかと言うと運動神経よりも継続する力を要するスポーツであるように思われ、「これなら自分にもできそうだ」という気になりました。練習は常に明るくポジティブな雰囲気。「ちょっとキツいかも」と思う練習もありますが、先輩から「できる!できるぞ!」と掛け声が飛び、同期とも励まし合いながら壁を乗り越えていきます。水上での練習も陸上でのトレーニングも、今までにない爽快な時間だったことを覚えています。練習が終わると、先輩方が晩御飯に連れて行ってくださり、練習を振り返ったりして和やかな時間を過ごしていくうちに、「この人たちとならやっていけそうだ」という気持ちになりました。

高校まで運動未経験にも関わらず第一線で活躍している先輩方が何人もいらっしゃったのも励みになりました。特に、当時の主将(玉浦周さん)は高校のワンダーフォーゲル部の先輩であり、日本代表クラスの体力水準と言われていたので、「同じ環境で育った自分にもできるはず」と勇気をもらいました。

当時の漕艇部は低迷期から見事復活を果たしたと聞いていますが、どのようなことを意識されて活動していたのでしょうか?

まずは「どこを目指して進むのか、どういうクラブにしたいのか」という組織のビジョンを明確にしましたそのビジョンに沿って具体的な数値目標を設定し、その目標を達成するためにはどうするか、皆で腹を割って徹底的に話し合い、徹底的に実行する環境作りを心掛けました。新しいことにチャレンジすることを良しとし、チャレンジによる失敗であればいくらやってもOKとしました。加えて、部内の競争を激化させました。日々の競争に勝った者は学年や経験年数に関係なく抜擢し、実力主義を徹底しました。

日々の練習においては、「ボート競技の基本とは何か」という原点に立ち返り、難しい技術を追求するよりも、例えば「大きく強く漕ぐ」というような、基本を外さないことを重視しました。行動を変える際には、できないことを無理にやろうとするのではなく「できるところを伸ばしていく」こと、「外から見て何に取り組んでいるのか分かるよう、大げさにやる」ことを心掛けました。

その上で、目標に照らして、「できたこと」「できなかったこと」「課題」「課題を乗り越えるために次にどうするか」を頻繁に振り返り、コーチや部員を巻き込んで繰り返し話し合いました

主将として特に心掛けたことは、自分自身が一番の熱意を持って、皆で決めたことにチャレンジすることです。結局、リーダーシップで一番大切なのは「熱意」だと思います。最高学年の時は特に、「クレイジーだ」と他の部員に呆れられるほど、練習に没頭しました。練習量については、前年の倍といっても過言ではないほど、大幅に増やしました。部員がついてこられるか内心不安に思うこともありましたが、結局皆ついてきてくれました。厳しい練習にも自身が率先して取り組むことで、皆の理解が得られたと思っています。僕の立案した、数々の「無茶振り」とも言えるような過激な施策や練習メニューに必死に取り組んでくれた仲間たちには本当に感謝していますし、素直に尊敬の念を持っています

主将としてチームを引っ張るなかで、最も印象に残ったことや感動したことは何ですか?

東商戦の対校エイトで連敗を阻止した瞬間は、今でも鮮烈な記憶として残っています。前年まで5連敗しており、ここで負けたら東大漕艇部の存続に関わる、そんな意識で対校エイトのメンバーは臨んでいました。実力的には全くの互角で、どちらが勝ってもおかしくない試合でした。0.5秒の僅差で一橋大学を振り切り、ゴールになだれ込んだ瞬間、地鳴りのような大歓声に迎えられ、応援席では母校の校旗が高々と掲げられました。岸では多くの東大関係者が抱き合って、泣いていました。現場の責任者として、部の中心選手としてプレーしていた私が逆に驚くような、熱狂の渦にその場が包まれたのを覚えています。対校エイトは、エイトのメンバーのみならず部員皆の思いを乗せたクルーであり、対校エイトの勝敗はクラブ・大学そのものの勝敗でもあります。母校の威信と誇りを胸に、仲間を思い、大学生活すべてを賭けて臨んだと言ってもいい、あの一戦に勝利した瞬間は、今でも忘れられません。強い東大の復活を夢見て、低迷期の苦しい時代を共に戦ってきた部員皆の努力が最高の形で報われた、本当に幸せな時間でした。

東商戦対校エイトで接戦を制した直後の東大クルー。大歓声の前で自然と笑顔がほころぶ(右から4人目が小路さん)

東商戦に勝ったことで弾みがつき、全日本選手権や夏のインカレでも好成績を残すことができました。1年前は自信なさそうに下を向いていたメンバーが多かったのですが、1年経って、「自分たちもやればできる」と、見違えるように自信と希望に溢れたクラブに生まれ変わりました。この光景を目の当たりにした時、東大漕艇部でやってきて良かったと心の底から思いました。秋にはクラブ全体として東京大学総長賞を受賞しましたが、こうした改革の成果が、大学側にも認められたと思っています。

「東京大学総長賞」授与式で佐々木毅総長(当時)を囲んで。漕艇部全体の好成績が認められ、クラブ全体での受賞となった(最後列中央、佐々木総長の右が小路さん)
主将としてのご経験が、社会人になってどのように活かされていますか?

チームの中心として、低迷期の逆境を皆で乗り越え、強豪チームに変革したことは、何ものにも代えがたい強烈な経験となりました。熱意が熱意ある仲間を引き寄せ、知恵や技術が集まり、トライアル&エラーを繰り返しながら殻を破り、不可能といわれたことを可能にしていく。そして、真のチームに成長していく。主将としての一年間で、景色が大きく変わりました。自分たちの心持ちと行動次第で、住む世界は変えることができる、自分たちで歴史は作るのだという、確かな手応えと自信を得ました。良い組織とは何か、良いリーダーとはどういう人物か、そうした肌感覚を、人間集団のど真ん中で学ぶことができました。職業として銀行やコンサルティングファームを選んだのは、「企業」という組織に関わる仕事だからです。漕艇部の主将時代の経験は、職業選択に確実に影響していますし、そうしたバックグラウンドが評価され、採用していただいたと思っています。

また、これは主将に限らずですが、「何かを突き詰めてやりきった経験」があると、各界の一流の方々とお話しさせていただく機会が増えます。「類は友を呼ぶ」という諺がありますが、取り組んだ分野が異なっていても、やりきった人同士、接点ができやすくなるのです。一流の方々にお話を伺うと、業界問わず、「やりきった経験があるか」を重視していることが多いです。主将としての最後の一年間に関しては、「あれ以上はできない、悔いはない」と思えるほど全力を出し切った自負があります。そうした経験を積んでいると、優秀な人材とコンタクトする機会が自然と増え、自身の成長の機会も増えるのです。一心不乱に漕艇部の活動に取り組むことは、一見遠回りのように見えて、社会で活躍するための近道と言えるかもしれません。実際、主将時代の一年間の取り組みのおかげで、社会に出てからやりがいのある仕事をいただく機会が増えましたし、人生や仕事における厳しい局面で東大漕艇部の先輩に救われたり、漕艇部関係なく各界一流の優秀なメンバーに手助けいただいたりといったケースは、何回もあったように思います。漕艇部の活動を「やりきる」ことは、こうした無形の財産を得ることにつながり、人生を実りある豊かなものにしてくれるのです。

2019年、国内トップクラスの旅館「山形座 瀧波」を経営する南浩史先輩(1984年入学)とのツーショット。卒業後もOBOG同士は固い絆で結ばれ、世代や業界を問わず、ボート談議に花を咲かせることもしばしば。
最後に、新入生へのメッセージをお願いします。

大学4年間はあっという間です。二度とやってこない貴重な青春の時間を、悔いのないよう過ごして欲しいと切に願います。

価値ある目標に向かって、仲間と切磋琢磨して共に成長していく経験は、あなたの人間としての器を大きくし、幸福な人生を送ることにつながります

東大に合格した今、もう一歩踏み込んで、一生に一度の大きなチャレンジをしてみませんか。東大漕艇部は創部以来百数十年にわたり、挑戦する幾多の若者を受け入れて心身を鍛え、タフな人材を社会の第一線に送り出してきた歴史と伝統があります。ここにはあなたが真剣にチャレンジする場があると我々は自信を持って言えますし、あなたの取り組み次第で、入部時に想像していた以上のものが得られるかもしれません。

少しでも興味を持ってくれたのであれば、是非一度、漕艇部の門を叩いてみて欲しいと思います。気軽にボートを漕いでみて、部員たちと接してみてください

戸田の漕艇場でお待ちしています