「東大生」ではなく,一人の人間として何になるか-玉浦周(1998年入学、主将)

今回ご紹介するのは、現役時代は主将として漕艇部を引っ張られ、現在は米国ニューヨークの国連日本政府代表部にて、世界の様々な課題に取り組んでいらっしゃる玉浦周先輩です!

自己紹介

 新入生の皆さん、新型コロナウイルスという未曽有の状況を乗り越えての合格、誠におめでとうございます。1998年(平成10年)文科Ⅰ類入学の玉浦周(たまうら しゅう)と申します。出身校は東京都の開成高校です。東大ボート部で4年間活動した後、大学卒業後は外務省に進み、現在は米国ニューヨークにある国際連合日本政府代表部で、各国の外交官らと共に、国際社会の抱えるさまざまな課題への対処について日々議論をしています。

東大漕艇部に入部された経緯や入部動機についてお聞かせください。

 普通の東大生で終わりたくなかったから、でしょうか。

実はもともとボート部に入ろう、運動部をやろうと決めていたわけではありませんでした。むしろ東大合格が決まってからしばらくは、達成感に浸って、世間一般がイメージするような「大学生活」を想像しながらふわふわしていましたね。

 ただ、世の中には自分よりもっと凄いやつが山ほどいるというのは、入学して1週間もすればわかります。考えてみれば、東大生は1年に3000人もいるわけです。このまま普通の大学生活をしていたら自分なんかはすぐに埋没する。そう思っていたときに、同じクラスの井手君がボート部のイベントに行くというので私もついて行きました。そうしたら、およそ東大生と思えない逞しい身体つきの先輩たちの、勉強だけでなくスポーツでも本気で一流を目指す姿勢がものすごくカッコよくて圧倒されまして。

周りと違うことをやることに不安がなかったわけではありません。また私は中高ワンダーフォーゲル部で、勝負の世界で鍛えたこともなく、体も細かったので、今さら運動部なんてという迷いもありました。でも、これは自分を変える最後のチャンスかもしれない。運動部はいくつもあるが、せっかくやるなら、大学から始めてもトップを目指せて、どこよりも真剣に競技に向き合っているボート部がいい。これをやり切ったらもっと自分に自信が持てるようになるのではないか。そう思って、思い切って入部を決めました。

玉浦先輩にとって、東大漕艇部やボートの魅力を教えてください。

 まず何よりも競技としての魅力だと思います。最低限の道具だけで水の上に浮かんで、自転車を全力で漕ぐのと同じスピードで水面を滑るように進んでいくわけですから、本当に気持ちがいいんです。こんな感覚は他のスポーツにはまずないです。なので、是非一度試乗会でその感覚を体験していただけたらと思います。ボート部員だけが独占するのはもったいないです、本当に(笑)。

 あとは、最高の仲間・先輩・後輩に恵まれることです。初めて新入生の体験練習に行ったとき、目がギラギラしている同期たちを見て、こいつらと4年間過ごしたい、と思いました。入部当時とても線が細かった私ですが、彼らと競い合い支え合いながら練習を重ねるうちに、日々記録も伸び、体つきも変わっていき、手応えを掴んでいくことができました。彼らのことは、業種は違えど今でも意識します。先ほどの井手君はある日「オレは弁護士になる」と宣言して、いつの間にか、さも当然のように試験に受かって弁護士になっていました。どこまでも有言実行な尊敬すべき同期です。また、ボートは極限まで自分と向き合う非常にタフなスポーツです。その厳しさを経験した者だけが共有できる連帯感は、上は何十年も年配の人生の大先輩、横は世界中のオアズパーソンたちとの距離を一気に縮めてくれますボートという共通言語を通じて在学中から様々な方と交流できるのも、ボート部の魅力の一つだと思います。

2年生のとき、戸田での練習での一コマ。左から2番目が玉浦さん、その右は現漕艇部監督の山路さん
東大漕艇部での4年間を振り返って、最も印象に残ったことは何ですか?

 いくつかあるのですが、一番うれしかったのは、トップアスリートと呼ばれる方に、「東大生」という肩書き抜きに、いち「ボート選手」として認めていただいたことかなと思います。大学3年のときに、その年のシドニー・オリンピックで6位入賞された長谷等(はせ ひとし)選手と一緒にダブルスカル(注:2人乗り)を漕がせていただく機会があったのですが、そのとき長谷選手から、「とても強く漕げている。もしボートを続けるなら、(当時長谷選手が所属していた)中部電力に来ないか。」とお声がけを頂きました。結局今の仕事を目指すことになってボートは続けなかったのですが、入学当時の自分からは想像もできなかったことですね。

主将としてボート部をリードされたご経験が、社会人になってどのように活きていますか?

 社会に出てからは、自分一人だけでは仕事はできません。独善的になってはいけませんが、人の意見に流されるだけでもいけない。自分の目指すべきものの軸がどこにあるのかを見極めるとともに、一緒に取り組むメンバーの考えを、なるべくその背景や気持ちの部分から理解するようにする。何事もチームで成果を出すには、目標に対して皆で同じ方向を向くことが大前提ですが、なぜボートを漕ぐか、なぜこの仕事をしているかは人それぞれです。私自身も学生の頃にうまくやれたとは思っていませんし、今でも試行錯誤ですが、こうしたチームワークの感覚は、個人ではなし得ない何かとてつもなく大きな目標に真剣に挑戦することでしか養えないと思います。

 国連も現在193か国の加盟国があり、それぞれに立場、考え方があります。各国の外交官は皆国を背負う優秀な人たちばかりです。その中で、自分の軸を定めながら、相手の意見をよく聞き、お互いが理解し合える、同じ方向を向けるところを探っていく。当然のことながら、「どこの大学を出ているか」は一切関係がありません。一人の人間として何ができるかが問われています。

3年生のとき、カナダ遠征での一コマ。ブリティッシュコロンビア大学の優秀な学生たちと共に漕ぎ交流した経験は、現在の外交官としての仕事にも原体験として活きている
最後に、新入生へのメッセージをお願いします。

 引き続き先の見通せない状況の中で、将来への掴みどころのない不安を抱えていらっしゃる方も多いかと思います。そんな皆さんへ、およそ20年前同じように悩みながらボート部入部を決めた一人のOBとして、あえて「今こそボート部である」と言いたい。ボート部に入っていなかったら,今の私は考えられないです。

 10年前は大震災がありました。当時私は米軍による「トモダチ作戦」の調整に奔走しました。この先も困難な状況はいろんな形で訪れます。そのときに必要なのは、どんな困難にも仲間と立ち向かい乗り越える真の意味でのタフさです。

 ボート部に少しでも興味を持ってこのページを訪れてくださっている皆さん、必要なのはあとほんの少しの勇気だけです。当時の私がそうであったように。決して後悔はさせません。大学生活を通じて皆さんが更に成長されることを心から願っています。いつの日か漕艇場でお会いできるのを楽しみにしています。