今回ご紹介するのは、現役時代に、中高と文化部出身ながら漕艇部に入部し、女子部コックスとして全日本級のレースでも大活躍された竹島千遥先輩です!
(これは2021年3月に書かれた記事です。)
自己紹介
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。この状況下での受験勉強は本当に大変だったと思います、お疲れさまでした!
2005年に滝高校を卒業後、理科一類に入学した竹島千遥(たけしまちはる)です。一年間漕手(ボートを漕ぐ役割)をした後、二年生の夏からコックス(ボートの舵を取る役割)に転向しました。工学部産業機械工学科を卒業し、新卒で機械エンジニアとして外資系メーカーに勤務した後、フリーランスに。 現在はライター・編集者として、主に企業のマーケティングやPRに関わるほか、複数のメディアで執筆しています。プライベートでは2019年に息子が生まれ、育児と仕事に忙しい毎日を送っています。
東大漕艇部に入部された経緯や入部動機についてお聞かせください。
私は中学・高校と文化部に所属していました。スポーツや体を動かすことは好きだったものの、運動部などに所属して本気で取り組んだことはなく、運動部への憧れやコンプレックスがありました。なので、大学では運動部に所属しようと思っていました。
経験者の多いスポーツでは挫折してしまいそうだったので、大学から始める人が多いスポーツに的を絞って、部活探しをはじめました。(最終的には、女子ラクロス部とボート部で迷いました。)
ボート部に決めたのは、先輩やOB・OGの人当たりが良く、一対一で向き合ってくれたから。また、当時の女子部主将が文化部出身ながら結果を出していたり、エルゴ(陸上用のボート練習器具)の体験で良い数値が出せたりして、ボートなら運動部の経験がない私でも活躍できるかも、と思ったからです。(あとは、新歓のときのスーツ姿が格好良かった!)
東大漕艇部での4年間を振り返って、最も印象に残ったこと・感動されたことは何ですか?
全日本級の大会で表彰台に上がったこともありますが、実は一番印象に残っているのは、最終学年で経験した京都大学との対校戦です。その年は、前年までの主力だったメンバーのほとんどが引退してしまい、初めて一緒にクルーを組むメンバーばかりでした。練習でも合宿生活でもすぐには息が合わず、なかなかレースで結果を残すことができませんでした。そんな中で京大戦に臨み、この試合だけは絶対に勝ちたい、どうしたら勝てるだろうかと全員で必死に考え、練習を重ねました。
試合前にレース戦略を練り、「このポイントで足蹴り(全員で合わせて出力をあげて漕ぐこと)を入れよう」と決めました。実際の試合では、はじめのうちは京大にリードされたものの、レース前に決めたポイントで足蹴りが決まり、逆転。そのまま差をつけてゴールできました。あの試合では、クルー全員がものすごい集中力を発揮し、息を合わせて漕ぎ切ることができました。私も、3年間のコックス生活で一番良い舵取りができたと思います。全員が船と一つになって、グングンと進んでいく気持ちよさ、ようやく手にした勝利の感動は、今でも忘れられません。
竹島さんにとって、コックスとしてクルーをリードすることのやりがいや魅力を教えてください。
コックスは自分の体ではなく、声を使って船の動きを変えます。練習中や試合中は船の動きを全身で感じて、どうしたらもっと船がよく進むのかを漕手にフィードバックしたり、漕手全員をまとめるための声掛けをしたりします。自分の掛け声一つで船の動きが変わる瞬間は、ものすごく気持ちがいいです。
コックスは一選手でありながらコーチのような役割も担います。それぞれの選手がもっと良いパフォーマンスを発揮するにはどうしたら良いのかを俯瞰して考え、練習や日々の生活の中で漕手と一緒に実践します。自分自身ではない他人を動かし、何かを変えるというのは、とても難しいこと。うまくいかないときはすごくもどかしいですが、結果が出たときは、自分のことのように嬉しいです。そういう難しさがあるからこそ、取り組むおもしろさもあるのだと思います。
ボート部での経験は、社会人になってどのように活かされていますか?
ボート部での経験を通して身についた力や考え方で、仕事や日常生活(育児含む)で役に立っているものは、数え切れないほどあります。目標設定の習慣や手法、コーチングスキル、ON/OFFの切り替え力、問題解決能力、忍耐力、諦めない力などなど。
他の運動部ではなくボート部やコックスならでは、という観点からだと、他人をよく観察したり、裏側にある事情を慮ったりできるようになりました。ボート部では合宿生活で部員と寝食をともにします。日常生活も一緒に過ごすことで、練習時間だけでは見えてこない、他の部員の生活や内面を知り、互いへの理解を深めました。その結果、単に一緒に練習を重ねるだけでは得られないパフォーマンスが発揮できたと思います。
社会人になってからも、他の人の行動を一側面から判断するのではなく、他の面からも見るように心がけています。そうすることで円滑なコミュニケーションがとれたり、お互いに良い仕事ができたりしていると思います。
最後に、新入生へのメッセージをお願いします。
色々お話しましたが、ボート部を出て一番良かったのは、家族と同じくらい信頼できる、大切な仲間たちを得られたことです。引退から10年以上経ち、それぞれが異なる場所にいますが、会えばボート部時代のように話せるし、他の友人には話しづらいようなことでも相談できます。私にとっては、今でも「友達」というより「仲間」という言葉がしっくりきます。
大学時代はボート部以外にも色々な経験をしましたが、私にとって今でもぶっちぎりで一番記憶に残っているのが部活動です。ただ「東大を卒業しました」だけではない大学生活、卒業後も続く人間関係など、大学で何かを得たい人は、ぜひ一度ボート部をのぞいてみてください!