今回は、コックスとして活躍された鶴井宣仁先輩(インカレ5位入賞)と、漕手として活躍された曽山いづみ先輩(全日本軽量級選手権銅メダル)に、コックスのやりがいやボート部の思い出について伺います!
(これは2021年3月に書かれた記事です。)
自己紹介
(鶴井)こんにちは、鶴井宣仁です。2004に東大理科一類に入学し、2007年に対校(最高学年:4年生)でした。ボート部の現役時代はコックス(舵手)をしていました。ボート部には現役引退後も関わって、大学院の修士2年まで学生コーチもしていました。今は㈱神戸工業試験場という400名ほどの会社で、専務取締役として経営に携わっています。
(曽山)はじめまして、曽山いづみです。鶴井君と同じ2004年入学です。ボート部では漕手でした。大学では文科三類から教育学部の教育心理学コースに入って、大学院の臨床心理学コースに進みました。臨床心理士として働きながら博士号を取得し、現在は神戸女子大学で助教をしています。
東大生がスポーツで日本一を目指すというボート部の目標、理念が面白いと思った
お二人の入部動機はどのようなものでしたか?
(鶴井)私は、中高はワンダーフォーゲル部で、山登りをしていました。自然の中で運動するのが好きだったので、山の次は水の上かなと(笑)それから、実家が会社経営をしていまして、いずれ後を継ぐ可能性があることを考えると、やはり学生のうちから何か大きなプロジェクトにグッと入り込む経験をしておきたいなと思っていました。そんな時、東大生がスポーツで日本一を目指すというボート部の目標、理念に出会い、面白いと感じて入部しました。
(曽山)私は、中高はバトミントン部でしたが、すごく下手でした(笑)なので、入学当初はもう運動はやめようかなと思っていたのですが、ボート部の先輩から女子部の食事会に誘われて行ってみました。そしたら、女子部の先輩がすごく優しくて雰囲気が良くて、一生懸命勧誘してくれたので、ふわっと入ってしまいました(笑)
元日本代表コーチの下で取り組んだ練習
お二人とも中高は全く違う部活をされていたのですね。ボート部は、大学から始める人がほとんどで、お二人のように経験者でなくとも活躍できるのも魅力だと思います。実際、鶴井さんは、インカレの全日本で5位入賞、曽山さんも全日本軽量級選手権で銅メダルなど輝かしい戦績を残されていますが、現役時代の練習はどのようなものだったのでしょうか?
(鶴井)私たちの代から、須藤さんという方にヘッドコーチをしていただきました。この方も東大ボート部のOBの方なのですが、非常にすごい方で、元日本代表チームのヘッドコーチをされていた方です。この須藤コーチの下で、4年生の時には想像を超える猛練習をしました。ここですごい練習をしたおかげで自信がついて、東商戦も勝つことができましたし、インカレの順位決定戦でもトップでゴールして5位を獲ることができました。で、須藤コーチ自身もびっくりされたのが、女子部も同じメニューをしたんですよ。曽山さんの同期の粉川さんという女子部の主将が格好良くてね、やろう、と。
女子部も男子部と同じ練習メニューに取り組まれたのですね。曽山さんのことを先輩方に伺うと、すごく努力家だったということを皆さん仰っていました。
(曽山)最大限美化されていると思います(笑)努力はそんなにした覚えが・・
(鶴井)でも特に4年生の時とか努力していたと思うね、やっぱり。須藤コーチから渡されたメニューは全部やり切っていたし。
(曽山)最初は!?みたいな感じだったんですけど(笑)でもとにかくやり始めて、やればできるというのが実感できるようになると結構面白かったですね。この猛練習で確かに自分の力もついたという実感があり、その結果として良い成績も残せたのは、本当に良かったと思います。
東大生が、スポーツ推薦の私大に勝つ
高い目標に向かって、男女ともに全力で取り組まれていたことが伝わってきます。印象に残っているレースの思い出などはありますか?
(曽山)軽量級の全日本選手権で、女子クオドルプル(4人で漕ぐ種目)で銅メダルを獲った時はやっぱり嬉しかったですね!
(鶴井)その試合では、スポーツ推薦の私大のチームに勝ってメダルを獲ったんですよ。私たちも応援していて、おお勝った!すごかったなと思っていたら、その私大のチームのコーチが横で怒っていまして、「スポーツ推薦のお前らが、東大生に負けてどうするんだ」と(笑)
(曽山)男子のインカレ順位決定戦も熱いレースだったよね。
(鶴井)私たちエイト(8人で漕ぐボートの花形種目)の最後の夏の時、一つのキーワードを作ったんです。勝負所で強く漕ぐことを「足蹴り」と言いますが、これを「クレイジー10本いこう!」って言っていたんです。勝負所で、とにかく10本、思い切り漕ごうと。これが決まって、最後のレースで私立の強豪大学を抜いたんです。はじめ相手が先行していて、なかなか差が縮まらなかった。そこでレース終盤の勝負所で、ここでクレイジー行くぞと。そしたら1本ごとに差がグングンと縮まって、トップに出たんです!このクレイジーというのがどこから来たかというと、先ほど話した須藤コーチの下での猛練習からです。あれだけの練習をしてきたのだから、それを出し切ろうと。
コックスの役割:クルーをまとめ、最高のチームを作る
全力で練習に打ち込んで来た成果が、レースの勝負所で表れたということですね。ボートはクルー全員が一体となって艇を進めることから、「究極のチームスポーツ」と呼ばれたりしますが、鶴井さんはコックス(舵手)として、レースに向けてどのようにチームを作り上げていきましたか?
(鶴井)そうですね、とにかく漕手の個性が強かったので、どうやって彼らの心を一つにまとめるかというのに注力しました。漕手と対話して、頭を整理させる。無駄なことは削ぎ落としていって、シンプルに、勝つためにはこれをしなきゃいけないから、これをしましょうと。とにかく自信をもって話していました。そういう話を繰り返して練習していくと、やっぱり徐々に漕手もレベルアップしていくんです。それがタイムとしても表れていく、そういうところにやりがいを感じていました。毎日の練習が積み重なると、視野が狭くなる時もあります。だけど確実に良くなっているからと、漕手に言う訳です。日々の練習の中では、成長の実感が得られない時もあります。そんな時も、大丈夫、着実に前進している。うろたえるなと。
レースで舵をとるだけでなく、普段の練習からチームを鼓舞してまとめ上げるのがコックスの役割ということですね。
(鶴井)猛練習をした時も、チームワークで乗り越えていました。練習で迷っている漕手がいたら話を聞いて、本当にやりたいことはなんなのか、気持ちを整理させたり。そういうフォローやサポートも重視していました。気持ちが元気な時はすごく良い練習ができますが、元気じゃない時はせっかく頑張っても得られるものが少ない。練習の結果というのは、y=ax+bだと思っています。bが初期値で、xは時間、aは練習の効率です。結果のパフォーマンス:yを高めるには、たくさん練習する(xを大きくする)だけでなく、いかに心のエネルギーを高くして、aの効率を高めるかが大切なんです。そのために、漕手一人一人と何度も対話をしていました。チームワークは、そういったプロセスの中でできていくものだと思います。
一人一人に寄り添うことでチームを作り上げていく、私も部活にいて、そういう先輩の存在はとても大事なことだと思いますし、この学年になってその大切さに気づいたところがあるので、すごく共感しました。
仲間と一緒に頑張るからこそ、どんなことも乗り越えられる
次に、曽山さんにお聞きしたいのですが、曽山さんは本当に努力家だったと伺っています。そうやってボートに打ち込んで来られた原動力は何だったのでしょうか。
(曽山)ボート部の雰囲気が好きでした。ボート部って組織がしっかりしていて、2年生くらいの時はそれに反発したこともあったんですけど(笑)でもやっぱりマネージャーの方々や先輩方、色んな方が支えて下さっているというのを感じていました。練習でも、自分だけが大変な訳じゃない、みんな一緒に頑張ってやっているんだと先輩が気づかせてくれて、それで頑張ることができました。それから、やっぱりせっかく始めたのだから最後までやり抜きたいという想いはありましたね。
(鶴井)女子部の先輩たちは、すごく後輩に尽くしてくれていましたね。
(曽山)本当にその通りで、居場所という感じがすごくあって、だからこそ続けられたと思います。それに、先輩たちが与えてくれたものがたくさんあって、それを自分の後輩たちに繋げていくということ。女子部の監督をしてくれていた先輩は、社会人になっても毎週のように来てコーチをしてくれたり、何か落ち込んだ時もマネージャーの先輩が食事に連れ出して励ましてくれたり、有形無形のものを一杯してもらったという感じがあります。そういう与えてもらったものを、先輩に返すだけだとそこだけで終わってしまいますが、下に繋いでいくと繋がっていく、そういうのは大事だなと思います。
(鶴井)上から受け継いだものを下に受け継ぐっていうのはボート部で学んだし、私たちの血肉になっていると思いますね。
先輩から後輩に受け継がれていくもの、そういうのも運動部ならではの宝物ですね。
本気で好きなことをやるからこそ感情が裸になる。そこで成長させられる。
それでは、ボート部での経験が、社会人になってどう活きているかも伺いたいと思います。鶴井さんは経営陣として会社をリードされる立場かと思いますが、コックスでの経験がどのように活かされていますか?
(鶴井)会社経営とボートのコックスで共通するのは、若干おこがましいですが人を導くということだと思います。会社組織という船において、経営陣は舵取り役と言えます。まさしくコックスのようなものです。みんなが迷わないように、論理的なストーリーを自信を持った喋り方で伝える。8人乗りのボートでも現在の400人規模の会社でも根本的には一緒だと思います。ある意味、経営者としての基礎をボート部で学ばせて頂いたと思います。
ありがとうございます。曽山さんは、教育者としてご活躍されていますが、ボート部での経験はどのように役立っていますか?
(曽山)私はそんなに格好良いことは言えないんですけど、大学時代に色々悩んだりしたことも、振り返ってみると良かったのかなと思っています。自分は何がしたいのか、みたいなことを真剣に考えて、泣いたりしたこともありました。自分以外の人はちゃんとできているのに、なんで自分はできないんだろう、みたいな。私にとっては挫折体験ですね。でもそういう体験を学生のうちにできたのは本当に良かったと思っています。自分の弱さとちゃんと向き合って、世の中にはこんなすごい人がいるんだとか、みんな頑張っているんだということを体験できたのは、とても大きかったです。チームの中で人としてどうあるか、自分の気持ちと周りの期待のバランスをどう取るか、というのもボート部で学べたと思います。
仕事と違ってお金も関係ないので、その分ガチでぶつかったりもするんですけど、そういう経験ができたのは本当に良かったなと思います。大学生くらいになると、普通はあまり感情を見せなくなる、上手に隠すようになるじゃないですか。
(鶴井)学生の部活動として、好きでやっているからこそ、感情面でもろに裸にさせられる経験は貴重です。そこに成長の機会があると思います。
ありがとうございます。お話を聞いていて、先輩、同期、後輩、コーチ、いろんな人との出会いの中で、自分がどう振る舞って活躍していくか、学生の内から本気でぶつかっていくということの大切さが伝わってきました。
新入生へのメッセージ
それでは、最後に、新入生へのメッセージをお願いします。
(鶴井)ボート部では、きっと他にはない経験ができます。その経験とは漕手としての道だけではなくて、コックス、マネージャーといった色々な活躍の仕方があります。興味を持って頂けたら、ぜひ幅広く色んな方に来て頂きたいと思います。ボート部での出会いは、本当に一生の繋がりになっていくと思います。ぜひ新入生の皆さんも、飛び込んできてください。
(曽山)何かを一生懸命やりたいという方にはすごく良いと思います。何かというのが、スポーツというのはハードルが高く思われるかもしれませんが、トレーニングってやればやるだけ体が変わっていくので、すごく面白いです。それから先ほど鶴井君からもありましたが、漕手だけでなく、コックスやマネージャーなど色々な活躍の場があります。ボート部の仲間が増えてくれたら、本当に嬉しいですね。