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2022年度から一緒に活動することになりました冨田千愛さんに現在の活動、今後の目標などお聞きしました。是非ご覧ください。

1.自己紹介

2019リンツで行われた世界選手権
女子軽量級シングルスカルにて出場
結果準優勝

皆様、初めまして。冨田千愛(とみた ちあき)と申します。

出身高校は鳥取県立米子東高等学校です。ボートは高校から始めました。高校時代は日本一といった戦績はありませんでしたがご縁があって明治大学の政治経済学部に入学しボートを続けました。その後、明治大学大学院の政治学研究科の博士前期課程(修士課程)を修了しました。

大学院での研究テーマは「スポーツと思想善導」というもので、内容はプロレタリア運動の転換点である1928年頃の日本社会における社会問題や、政治問題を扱い、その中で当時の学生運動や左翼運動を政府が不健全とみなしスポーツでそれらの思想を統制しようとした事実について着目しました。「政治とスポーツ」の関係性の中でも問題点やマイナス面だけでなく、スポーツ本来の魅力やスポーツの可能性について競技者としての視点からも論じました。論文がなかなか書けなくて2018年に企業チームである関西電力に所属しつつ1年休学するという措置を取りました。(卒業に3年かかりました)大学院を中退しようかと思った時もありましたが論文を書く中で自分の気持ちや思いを新たに発見できたり、また論文を書くプロセスが競技生活の中でも筋道立てて計画したり考えることに繋がり良い経験になりました。

2.東大ボート部の印象を教えてください。

12月より共に活動してみて、東大ボート部は自由であるがその中にもきちんと規律があるなという印象を受けました。

私の母校の明治大学では入寮と同時に「自由と規律」(池田 潔著 岩波新書1949)という、著書がイギリスでのパブリックスクールでの経験をもとにイギリス人の人格形成や学校生活の中で自由の精神のもと規律を守る心構えが育まれていく過程が描かれている本を読まされます。入寮時に監督(今は退任しています)に自由には責任が伴うのだという精神を叩き込まれるのですが、当時の学生の大半は私も含め殆ど理解出来ずにいました。結局自由という野放しの状況だと組織の秩序が保てず、それ故いわゆる体育会系の理不尽とも言える厳しい上下関係、掃除や仕事は全て下級生のみ行うといった厳しい規則のもとで活動が行われていました。(それが良い、悪いという話ではありません)しかし、ここ東大ボート部ではそのような精神を教わらずとも自然に皆さんには備わっていると感じました。掃除は上級生も下級生も全員がやっていたり、とりわけ厳しい規則や上下関係など無くとも秩序が乱れたりすることなく、素晴らしいマネジメント、組織化のもと全員が伸び伸びと活動をされているという印象を受けました。

3.東大ボート部に所属してどの様な活動をしているか教えてください。

昨年の12月より東京大学大学院教育学研究科の(野崎教授の研究室)特任研究員となりました。東大のボート部と共に陸トレや練習を行いつつ大学へ通っています。

研究分野は「多自由度身体運動の制御・学習過程の解明」に関する研究です。主に動作の分析を行ったりしています。これまで大学、大学院と政治系の分野のことしか学んだことがありませんでした。自身の競技においてもボートの動きや自分の身体の動きに関して科学的な視点からアプローチを殆ど行わず、今振り返れば「なんとなく」でやってきました。これまで培ってきた「なんとなく」の感覚的な部分に科学的な視点でのアプローチを融合させたらもっと違う世界がみれるのではないか、ボートがもっと面白く感じるのではないかと思っています。

4.目標をお聞かせください。

目標と聞かれた時に言霊の力もあるような気もするので取材やインタビューなどの回答としては「パリ五輪です」と言うようにしています。

しかし本心はと言うとそこまで五輪というものに執着していない自分もいるような気がします。と言うのもこれまでの自分を振り返ってみると長期的に何か大きな夢や目標に向かって生きてきたと言うより、その時、出来ないことや達成したいことに全力を注いだ結果、気がついたら大きな目標まで到達していたからです。今現在思う目標を二つあげるとすると、一つ目は艇と身体をもっとシンクロさせると言うことです。私は艇の安定感が弱く、しばしばバランスを崩してしまいます。その瞬間ボートから楽しいという気持ちが消え、技術を直したい、気持ち良い艇速が出ない、と不快感やしんどさを忍耐する気持ちで漕いでしまいます。海外の選手の漕ぎを見ていると、とても気持ちよさそうに艇と身体がシンクロしています。フォームを見て真似ることは出来ても、その選手が感じているであろう艇と一緒になる感覚は私にはまだ分かりません。それが分かるともっと気持ち良く楽しい世界があるのではないかと思っています。

二つ目は研究目標分野としてイップスに関して研究を深めていきたいと思っています。

イップスはメンタルでの影響も少なからずあります。心理学系にも興味があるのもイップスに関して研究したい理由の一つですが、これまでボート人生の中で、ある時急に思い通りに身体が動かせなくなったり、今まで普通にオールを握って漕いでいたのに急に真っ直ぐ引くことが出来なくなるといった症状に長期的に苦しみ、競技を辞めざるを得なかった選手を身近でみてきました。その時、近くにいながらどうすることも出来なかったことに後悔があり、脳と運動との関係からの知見を得て今後何かに役立てたいなと思っています

2021東京オリンピック
女子軽量級ダブルスカルにて出場 結果10位
後方が冨田さん

5.長年ボート競技を続けている冨田さんから見たボート競技の魅力を教えてください。

水の上を滑っているという非日常感を味わえることが最大の魅力だと思います。

もう一つはボートは誰にでも出来る競技だと思っています。(完全に持論です)

例えば私はこれまでバスケットボールと駅伝を経験したことがありますがバスケットボールや駅伝で培った持久力や足腰の強さはボート競技にとても活きました。またダンスや武道をしていた人はしなやかさや脱力の仕方がうまく、力みが無い漕ぎが出来ていました。野球やテニスなど球技をしていた人は道具を使うと言う類似点からオールを使ってボートを漕ぐことへ難しさが他の人より少なく身体の使い方が上手いと思いました。また全くスポーツをやった事のない人は向いてないのかと思われそうですが実はそんなことはありません。全くスポーツの経験のない人の場合、ボートは身体を激しく動かして体力で漕ぐという固定概念のようなものが無いので、テコの原理さえ理解するととても無駄がなく効率の良い漕ぎが会得しやすいように思います。つまりボートは座って漕ぐという単純そうな動きの中にも様々な分野の能力の大切な部分が集約されたとても興味深いスポーツであると思います。

ボートのレースは単純で先にゴールした人が勝ちです。どんなに下手くそでも先にゴールしてしまえば勝ちなのです。そしてこのような漕ぎをすれば勝てるという正解はありません。正解のないことも魅力の一つです。正解はないけれどスピードを常に追い求めてクルーのメンバー(一緒に乗る仲間)と悩みながらも、その過程で感じる艇と仲間とのシンクロ感やそれがレースで体現できた時の感覚は言葉では言い表せないものがあります。

6.最後にボートに興味を持っている・これから入部してくる新入生へ向けてメッセージをお願いします。

2016・リオ五輪
女子軽量級ダブルスカルにて出場
結果12位
手前が冨田さん

東大ボート部はマネージャー、コーチ、スタッフ全員の持ち合わせている志が素晴らしく高く、一人一人の個々の力がこんなにも集まっている組織は国内の大学ボート界でトップであると思います。その個性豊かな個々の力を融合させたとき、化学反応が起き、大きな力を生み出すことがこの東大ボート部で出来ると思います。

大学生活の中で様々な出会いや経験は必ずその後の人生に大きく影響を及ぼすはずです。ボート競技を辞めた後も続くであろう長い人生の中で大学4年間のボート生活は、かけがえのない思い出となり、そこでの経験は、困難や壁にぶち当たった時きっと背中を押してくれると思います。ぜひその4年間を東大ボート部にて過ごしてみませんか?

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